"一条校信仰"が壊れつつある…教育の常識に変化、東京・あきる野に誕生する小学生対象のモンテッソーリスクールにみる新しい価値感
「2018年からアメリカの学校で勉強しましたが、同僚たちはアメリカをはじめ世界中にあるモンテッソーリ教育の学校から派遣されていて、学費や生活費は派遣元から援助を受けていました。資格を取れば働く場所も保障されています。しかし私の場合、完全な自費だったし、小学校課程でモンテッソーリ教育を行う学校の少ない日本では、働く場が保障されているわけでもありませんでした。そんな境遇で、アメリカでの同僚たちには『Are you OK?』と心配されました(笑)」
そこまでして安倍氏が6歳~12歳の教師資格にこだわったのには、もちろん理由があった。
「たまたまイタリアのモンテッソーリ教育の現場を視察するツアーに誘われたのがきっかけでした。モンテッソーリ教育の教室や保育園で働きながら、2016年にはモンテッソーリ教育をもっと広めたいとの思いから『イデー・モンテッソーリ』というポータルサイトを始めていました。
そのサイトでイタリアでの実践を紹介したくて、ツアーに参加しました。そこでモンテッソーリ教育の小学校を見学し、穏やかに、幸せそうに学んでいる小学生を見て、かなりのショックを受けました。小学校段階でモンテッソーリ教育を学べる選択肢が日本には少ないことに気づかされたことも衝撃でした」
そこで、まずは教師資格をとろうと思ったのだ。「最初は、資格さえとれば働くところはみつかるだろう、くらいに考えていました」と、安倍氏。しかし、現実が甘いものではないことも痛感させられる。
数は少なくてもモンテッソーリ教育を実践する学校はあるにはあるが、少ないだけに教師ポストも少ない。誰かが辞めないかぎりポストは空かないのだが、やっと得られたポストを手放す人もきわめて少ない。したがって教師になりたくても、かなり難しい状況である。
「2019年くらいには、トレーニングを辞めようと本気で考えました。しかし、『働く場所がないのなら、自分でつくろう』と発想を転換したんです」と、安倍氏は笑う。
“習い事”ではなく学校にこだわった理由
そして、2022年に東京の世田谷区に0歳~12歳を対象にしたモンテッソーリ教育の実践を行う「モンテッソーリ・ファーム」を設立し、代表に就任する。
クラウドファンディングで資金を募りはじめたのが2020年末ごろからで、約380人の賛同者から約720万円の資金を集めてのスタートだった。夢だった小学生のためのモンテッソーリ教育ができる場を実現したのだ。
ただし、それで彼女が満足したわけではなかった。モンテッソーリ・ファームは、学校帰りの子どもたちが“習い事”としてモンテッソーリ教育を学ぶ場でしかなく、学校ではない。安倍氏の夢は、終日にわたってモンテッソーリ教育が実践される学校をつくることだった。
彼女の模索は続いていた。そして、前述したように今野氏からの講師依頼があった機会に、モンテッソーリの学校をつくる構想をもちかけることになるのだ。


















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