スペイン製のドイツ新型特急「ICE L」期待と不安 2年遅れたデビュー、メーカーの先行きは不透明

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導入実績がない車両を導入したことでトラブルが続いたケースは過去に何度か見られ、ドイツ鉄道でもICE TDディーゼルカーで経験済みだ。

また、今回のタルゴ230と直接の関係はないものの、スペイン国内で24年から運行を開始した高速列車AVE S106型車両は、運行開始直後からトラブルが多発し、運休を繰り返すなど大きな問題となっている。納期遅延や運行開始後のトラブルは、その後の運行計画に大きな支障をきたす。このICE Lも試運転では表面化しなかった問題が起きないか、非常に気になるところだ。

同時に契約した機関車の運行と、制御客車を先頭にした推進運転(プッシュプル運転)の許可が下りていない点も課題だ。機関車は運行開始までに許可が間に合わないと判断され、シーメンスからヴェクトロン機関車をリースして運行すると発表されている。推進運転もできないため、12月からの営業運転では、前後に機関車を連結するか、終点で機関車を前後につなぎ変えての運行を余儀なくされる。

ICE L 制御客車
ICE Lの運転室付き制御客車(撮影:橋爪智之)
ICE L 暫定牽引機 ヴェクトロン
運行開始のためリースされたヴェクトロン機関車(撮影:橋爪智之)

メーカーの先行きにも不安

導入計画にも懸念がある。23年にはオプションを行使し、確定注文23本に追加の56本を加えた計79本・総額14億ユーロ(約2475億円)の大型契約となったが、納期遅延が響き現在は60本へ減らす交渉が行われているとスペインメディアは報じている。納入の遅れは、認可取得の遅れのほか、コロナ禍によるスケジュールの遅延があったとされる。

ICE L ベルリン東駅
ベルリン東駅で展示されるICE L(撮影:橋爪智之)
【写真をもっと見る】「ICE L」1等車と2等車はどう違う?食堂車のインテリアや厨房、家族向けコンパートメントの内部、そしてベルリン東駅で開かれた発表会の様子。かつてドイツ鉄道で活躍した夜行列車「ICN」のタルゴ客車の写真も

さらに、メーカーのタルゴ社自体も不安材料を抱えている。同社は経営状況が芳しくなく、ガンツ・マーヴァグ社を中心とするハンガリー系コンソーシアムへの身売りを検討していたが、ロシアとの深い関わりが懸念されるハンガリー企業への売却にスペイン政府が猛反発。急遽チェコ政府を通じて同国のシュコダ社による買収が検討されるなど、先行きに不透明さが残る。会社の状況が安定しない場合、この先の納期遅延やメンテナンスのための部品供給に不安を抱えることになる。

運行開始前から、期待と不安の両面で注目されるICE L。12月の営業開始直後を無事に乗り切れるかが、今後のカギとなりそうだ。

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橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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