古都の名物「よもぎ餅」、"高速餅つき"で作り続けて30年以上。《社長が語る半生》挫折の先に見つけた一生の仕事、守り続ける母の味

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中谷堂では多い時で1日3000個のお餅が売れ、日にもよるが1日30回餅をつく。以前は年末年始を含め、ほぼ360日営業していたが、インバウンド客の増加による多忙さから、約2年前に定休日(火曜日)を設けるようになった。

接客の様子
ひっきりなしにお客さんが訪れる(写真:中谷堂提供)

今まで定休日を設けなかった理由を聞くと、中谷さんはこう答えた。

「お客さんが来てくれるからね。店が休みだと知らずに来られて、がっかりされるのを何度も見かけて、定休日を設けられなかったんです」

創業からずっと「よもぎ餅」一択の理由

現在63歳の中谷さんは、肘の痛みなど、年齢による体の変化も自覚している。「昔から腰が痛いとか、膝が痛いとかはあったけど、すぐ治っていた。今はどこかが痛いとなったら、年齢のせいにしたくはないけどなかなか治らないね」。毎年人間ドックを必ず受けるなど、健康にも気を遣っている。

一般的に考えれば、「いろんな味のお餅を売る方が客を呼び寄せるのでは?」と思う。だが、中谷さんは創業からずっと「よもぎ餅」一択だ。

それは、健康に良いという理由以上に、シンプルに「美味しいから作っている」という。彼にとってよもぎ餅は「昔からある母の味を再現したい」という強い願いが込められた、特別な存在なのである。

あんこが入ったよもぎ餅
あんこが入ったよもぎ餅(写真:中谷堂提供)

新しいことをするのではなく、ひたすら一つの文化を守り続ける。

これが古都・奈良ならではの、素朴で実直な経営姿勢だろう。後継者育成や娘への承継を強制する考えはなく、中谷さんの目標は「これを1日でも長く続けること」だという。取材の終わりがけに、彼は笑顔を見せてこう言った。

「いつまでできるかは神のみぞ知るやけど、70歳でも80歳でもできれば嬉しい」

【↓あわせて読む↓】
「パフォーマンスじゃないのだが…」、"高速餅つき"大人気の陰で店主が苦悩する最もな理由。一斉にスマホで撮影、見せ物化する伝統文化
池田 アユリ インタビューライター

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いけだ あゆり / Ayuri Ikeda

インタビューライター。愛知県出身。大手ブライダル企業に4年勤め、学生時代に始めた社交ダンスで2013年にプロデビュー。2020年からライターとして執筆活動を展開。

現在は奈良県で社交ダンスの講師をしながら、誰かを勇気づける文章を目指して取材を行う。『大阪の生活史』(筑摩書房)にて聞き手を担当。4人姉妹の長女で1児の母。

HP:https://www.foriio.com/amayuri4

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