「山の茶屋が消えていく…」 上皇陛下が訪れた老舗も直面する、"登山者の砦"の構造疲労

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100年以上続く老舗であっても決して楽な商売ではない。かつてはすべての物資を人力で荷揚げしていたが、鈴木さんが小学生の時に荷揚げリフトが設置され、負担は大きく軽減された。しかし、今でも山頂まで自力で登らなければ営業できないことに変わりはない。

「朝5時前には起きて水や食材を車で麓まで運び、リフトで荷揚げしてから山に登り、店に着いたら仕込みに取り掛かって、9時頃から営業をしています。山頂には電気も水道も通っていないので、すべて自家発電です」(鈴木さん)

週末の営業で使う水だけで200リットル。それ以外の食材やペットボトル飲料などの商品も含めて一度に数百キロの物資を荷揚げしており、車やリフトに載せるだけでもかなりの重労働だ。もちろん水道光熱費も馬鹿にならない。

利益目的だけでやっているわけじゃない

だが、500ミリリットルのペットボトル飲料は250円、大きなどんぶりにたっぷり入った名物のなめこ汁は600円、紫花豆をじっくり煮込んだ自慢のおしるこは700円と良心的な値段だ。

金時茶屋の名物、なめこ汁(筆者撮影)

「商売ではあるけど、利益目的だけでやっているわけじゃない。儲けよりも、皆さんに喜んでもらえればいいと思ってやっています。それにうちは神社の祠を守る役割もあるし、天候が荒れた時の避難場所でもあるからね」(鈴木さん)

金時山は周囲の山々よりもひと際高く、周囲を遮るものが何もないため、富士山を間近で一望できる山として古くから登山者でにぎわってきた。その反面、天候の影響を受けやすく、暴風雨や落雷の際は逃げ場がない場所でもある。

「台風や豪雨のたびに被害に遭うので、小屋を維持管理するだけでも大変です。だけど、特に被害がひどかった1958(昭和33)年の狩野川台風の時に、うちの父が小屋の修理に来て、母の妙子と知り合ったそうなので、台風がなかったら私はこの世に生まれていないんですよ。良くも悪くも厳しい自然と共に歩んできた茶屋ということです」(鈴木さん)

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