「暫定税率廃止、ガソリン代安くなるぞ!→ハイ、走った分だけ課税ね」になる? いま話題の「走行距離課税」、どのみち実現不可能と感じるワケ
「係数」といっても、影響の大きい対:東京・大阪で係数をかけて税制軽減をはかるのも、地域ごとの差別が過ぎる。
生活に必要な「物流」「食品輸送」などの縛りで係数をかけるにしても、「畑から選果場への軽トラ輸送」「到着先の物流倉庫から店舗への輸送」など、メインの長距離以外のフィーダー輸送を、どこからどこまで優遇するのか。かかわる人々をすべて納得させる決まりを、すんなり調整して作れるのか。複雑な計算式が前提となり、現場に負担が重くのしかかるのでは……と思えてくる。
そもそも、どの業界も地域ごとの事情や、業界ごとの事情・会社の大小など、考慮しなくてはいけない懸案が山積み。このあたりの不公平をならすルールを作成できたとして、何年かかるのか。
こうなると、走行距離課税は「ザル法」であり、「エコカーとガソリン車はろくに格差是正されない、課税係数で生まれたあらたな格差で、いたるところで紛糾」といった未来予想図しか見えない。おそらくエンドレスで特殊ルールの議論が続くであろう、といった疑念が、筆者が「走行距離課税、結局無理では?」と感じる一因だ。
そもそも、欧米の「走行距離課税」は、1993年のEU誕生後に各国のガソリン価格がバラバラになったことや、高速道路の有料・無料が各国で介在して不公平が生じたことから、1999年の「ユーロニビニエット指令」以降に是正策として始まったものだ。
だいたい、EV促進策も道路の老朽化も相当前からわかっており、将来的な財源の必要性もわかっていたはずだ。にもかかわらず、“暫定税率”を恒久化することもなく、特定財源を一般化したうえで「税収の使用途は広がるものの、今後は道路が老朽化するからちょっとは取っておこうね?」という基本的な提言もしなかった。
聖域なき人気取りに甘んじて、必要な財源をさっぱり確保しなかったツケがいま「走行距離課税」として、働く人々の現場に回ってきたようなもの。正直、心情的にも払いたくないところだ。
大騒ぎのわりに「議事録でちょっと意見が出ただけ」不毛な自動車新税論、いつまで続く?

ただ、これまでの「走行距離課税」議論で、ぬぐえない疑問がある。新聞報道による「提言」「推測」は頻繁にあるものの、表立って「検討」されている様子が、さっぱり見えないのだ。
まず、「走行距離課税」というキーワードが、税制調査会で公的な議論として出てきたのは、いつだろうか? 「税制調査会(第20回総会)」(2022年10月26日開催)で、「自動車関連の新税」について、慶応大学・土居丈朗教授が、以下のように発言している。
「電動車であっても、走行課税をどういうふうにすればいいかということをそろそろ真剣に考える必要があると思います。例えば、走行距離に応じて課税するなど、かなり踏み込んで具体的な走行課税について議論することを私は提案したいと思います」
議事録を見る限り、土居氏の提言で議論が活発化した……ということはなく、他の議題に移っている。しかし、同日の夜22時に公開された日本経済新聞の記事では「走行距離課税の導入議論」との見出しが飾った。
同時期に国会で、鈴木俊一財務大臣(当時)が予算委員会で質問に答えているが、「考え方のひとつ」と答えるにとどめている。しかし報道各社は実体のない「具体的な議論」に食いつき、岸田文雄首相(当時)が「具体的に検討していることはない」と、“火消し答弁”を行うことで、騒ぎは収まった。
つい最近も、とある媒体が「走行距離課税 導入へ本格議論」といった温度感の記事を配信したが、「本格議論」の根拠として名前が挙がる朝日新聞の記事にそういった記述が見当たらず、Yahoo!配信記事では「明確なソースがない」「推測」と、公式コメンテーターに斬り捨てられる……という珍事もあった。
「走行距離課税」は国民のほとんどが関係する話であり、もはや、まともに報道されないことを差し引いて見るべきだろう。石油連盟・業界団体側も、地方格差の拡大・不公平といった声に応える解消策をセットにして「導入要望」を行わないと、つど不要な騒ぎが起きるだけだ。
これだけ話題になっているのなら、賛成・反対にかかわらず踏み込んだ話を聞きたい。具体的な新税のプランと必要性、「税収増や他の財源からの確保」ではダメな理由まで語ってくれる政治家・専門家は、いつになったら出てくるのだろうか?
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