≪神戸女性刺殺事件≫“次の被害者”を生んだ司法判断 前回事件で住居侵入・首絞めの谷本将志容疑者(35)はなぜ見逃された?
一方、現行の裁判で行われているような、裁判官の経験と印象に依拠している主観的な再犯リスクの判定は、科学的判定に比べると一貫して予測力が劣ることが報告されている。その精度は、「当てずっぽう」と同じAUC=0.5程度でしかない。
たとえば、被告が反省しているかどうかは、再犯リスクにほぼ無関係であることが、研究では示されている。反省したふりを装うことは簡単だし、仮に心から反省していたとしても、パーソナリティや認知などの病理が深い者は、それを治療しなければ、再犯リスクは高いままだからだ。
したがって、今後はわが国の司法判断においても、裁判官による専門家判断だけに依拠するのではなく、それを補強し、透明性を高めるために科学的な再犯リスク評価ツールを活用すべきだ。
加えて、リスクは固定的でなく、環境変化や治療反応で動的に変わるため、定期的な再評価と介入計画への反映が不可欠である。執行猶予になった者に対しては、定期的に犯罪心理学の専門家がツールを用いてリスク評価を行うようにすべきだ。
量刑判断と再犯防止施策の齟齬
今回の問題の核心は、「再犯リスクが高い」と判断されながらも、量刑・監督設計がそれに整合していなかった点にある。つまり、形式的な「初犯執行猶予」という法的決定が、実質的には高リスク者を無防備に社会に戻すことになり、結果として今回の凄惨な結果につながった可能性が否定できない。
そのため、これが国民の司法への信頼性を大きく揺るがす事態となっている。
犯罪心理学では、再犯予防として、「再犯リスクに応じた治療的介入」「個別的治療ニーズに焦点を当てた治療」「エビデンスのある治療の選択」を重視し、これに基づく治療的介入が再犯率低下と関連することが明確に示されている。具体的には、およそ30%程度再犯率を抑制することが示されている。
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