≪神戸女性刺殺事件≫“次の被害者”を生んだ司法判断 前回事件で住居侵入・首絞めの谷本将志容疑者(35)はなぜ見逃された?

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この判断は、法的、形式的には妥当だったのかもしれない。しかし、犯行態様の悪質性(首絞め、長時間の拘束、強固な固執性)は、再犯の可能性を強く支持する事であった。

ここに明確な齟齬がある。形式的な「初犯ゆえの執行猶予」と、実質的な「高い再犯リスク」という評価が並存しながら、再犯リスクのほうが十分に量刑・処遇に反映されなかったことには大きな疑問が残る。

法律の専門家の中にも「量刑自体は慣例的に妥当だが、保護観察や治療的介入を付すべきだった」との意見もあり、この点で制度的対応が欠落していたことが指摘されている。

科学的リスクアセスメント導入の必要性

このような齟齬は、再犯リスクの評価が主観や慣行に依拠してきた現行実務の限界を浮き彫りにする。

犯罪心理学では、HCR-20V3、Static-99R、LS/CMIといった科学的な再犯リスク評価ツールが多数開発されている。これらは、犯罪歴、パーソナリティや認知などの臨床所見、社会的要因を統合し、再犯リスクを客観的な指標で推定するものである。

メタ分析によれば、暴力再犯予測のAUC(予測精度)中央値は約0.68であり、偶然予測(0.50)を有意に上回る。つまり、当てずっぽうに再犯予測をした場合の精度はおよそ50%(再犯するか、しないかの二択だから当然である)であるのに対し、科学的ツールを用いれば、これが70%程度まで上昇する。

この精度は個人の再犯を確実に断定するほどのものではないが、再犯高リスク者を特定し、彼らに集中的に司法的資源を配分し、治療や予防的介入を可能にする点で実務的意義が大きい。

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