広島で話題の路面電車にも「2つの問題点」がある 世界水準には程遠い「これはLRTではない」

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広島に1994年に開業した新交通システムの路線愛称は、「明日」と「トラム(tram:路面電車)」を組み合わせて「アストラムライン」という。

新交通システムは旧来の路面電車とは違い、全扉で乗降し、走行空間が確保され、交通信号に無関係で、利便性・速達性・定時性に優れる。

アストラムラインは、「明日(これから)のトラムは、このようにあるべき」と言っているようだ。LRTは新交通システムと同等の利便性と機能を備えている。フランス・ストラスブール市は、新交通システムの整備を決定していたが、市長選挙でLRT派の候補が当選し、LRTが1994年に開業した。わが国の現状の路面電車では、新交通システムにはまったく太刀打ちできない。

路面電車活用が国策となってから四半世紀

路面電車のLRT化やLRT整備の取り組みが行われ、低床車の増加や停留所の近代化は進んだ。しかし、輸送システムとしては旧来の路面電車よりはマシといった程度にすぎない。

持続可能な都市か否か、つまり、「住みたい都市」として選ばれるか否かは、とくに高齢化が進む今の時代には、マイカーに依存せずに暮らせるか否かだ。1980年代以降に世界の都市で「LRTでまちづくり」が盛んにおこなわれている。

肝心なのは、LRTは旧来の路面電車とは異なることだ。①運賃収受の革新(全乗客に「セルフ乗車」の採用)、➁電車走行空間(電車レーン)の確保、③交通信号の電車優先制御を徹底した利便性の高い路面電車システムなのだ。
だからこそ、「まちづくりの道具」として整備される。

この①➁③の実施については、乗客である市民(国民)の理解と協力、軌道事業、道路、道路交通のあらゆる官民関係者の理解・協力と決断が要る。しかし、わが国では、賛否意見や利害関係の調整が十分にされておらず、できることに限って実施してきたから、今でも旧来よりマシ程度の利便性と機能しか備わっていない。

広島の路面電車の駅ビル乗り入れ初日は、想定外の「施設点検」の発生のためダイヤが乱れた。初日で客が多いという事情はあったが、運賃収受に時間を要すために、ダイヤの回復に時間を要した。富山ライトレールも宇都宮ライトレールも開業当初のダイヤ乱れの原因は、多客に耐えられない旧来方式の運賃収受であった。

公共交通にとって多客こそありがたいことはない。それに耐えられないというもったいない実態(利便性、速達性、定時性の低さによる市民の期待外れ)が繰り返されている。

運賃収受の革新、つまり、本当のLRT化は待ったなしである。

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柚原 誠 技術士(機械部門)

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ゆはら まこと / Makoto Yuhara

1943年生まれ。岐阜大学工学部卒業。名古屋鉄道入社。鉄軌道車両の新造、改造、保守業務に従事。運転保安部長、交通事業本部副本部長、代表取締役副社長・鉄道事業本部長・安全統括管理者を経て2009年退任。この間に「人に優しい次世代ライトレール・システムの開発研究に関する検討会」に委員として参画。鉄道友の会副会長。技術士(機械部門)。

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