テルモ、心臓治療で再生医療の産業化へ挑む 改正薬事法の下で2製品がスピード承認
価格決定の重要な判断材料は製品の原価だ。ハートシートの治験では、コストは手術の手技料を除き、一例当たり千数百万円。患者一人ひとりから細胞を採取して、検査、4週間の培養を行うオーダーメード製品だ。現状では計画・大量生産ができず、大幅なコストダウンは難しい。
リスクもあり現状では高額に
製造中止のリスクもある。先行するJ-TECの重症熱傷向け人工表皮では、培養中の患者の死亡などによる製造中止が30%強。ひざの人工軟骨では、入院やリハビリ期間の長さを熟慮した結果、患者都合で取りやめるなどのケースが約20%。「このようなロスは思ったより大きいが、現行の保険制度ではカバーされず、企業努力で改善しがたい」(J-TEC幹部)。
こうしたリスクも考えると、テルモの利益を確保するには、1000万円を超す価格となってもおかしくない。
一方で、1000万円単位の治療法だと、多くの患者が利用した場合、国民の医療費負担が莫大になってしまう。ハートシートの対象よりも重症度が高く、心不全の患者に行われる心臓移植の手術コストはおよそ3000万円。人工心臓はおよそ2000万円かかる。これらと同列の高額となれば、再生医療が身近な治療となるのは難しい。
新宅社長は「プロセスの合理化や、患者以外の細胞でシートを作っておくことも、いずれ行いたい」とする。もっとも、他人の細胞の場合、拒絶反応や調達の安定性の問題があり、ハードルを越えるには時間がかかる。
画期的な新薬が生まれにくくなる中、再生医療への企業の取り組みは加速。アステラス製薬は循環器疾患とがん領域で、数年以内の臨床試験の開始を目指す。富士フイルムは今年5月、iPS細胞を開発・製造する米ベンチャーを買収した。業界団体の「再生医療イノベーションフォーラム」には実に173もの会社が加盟している。
今回承認された2製品が軌道に乗るかどうかが、再生医療の今後の普及を占ううえで試金石となりそうだ。
(「週刊東洋経済」2015年10月24日号<10月19日発売>「核心リポート04」を転載)
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