保護者"同伴"の立川・小学校侵入事件から学ぶ 「保護者対応の限界」と危機管理 理不尽な要求は断固拒否、外部専門家の援助を

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では、この新たな形態の侵入事件とどう向き合うべきか。

まず、学校、家庭、地域社会の連携という公理を疑うことから始めなければならない。現在、学校と保護者、地域住民は連携して子どもの教育に当たる存在であるという考え方が、学校教育の公理になっている。教育基本法13条の「学校、家庭及び地域住民その他の関係者は、教育におけるそれぞれの役割と責任を自覚するとともに、相互の連携及び協力に努めるものとする」という規定がその象徴である。

しかし、今回の事件は、この学校、家庭および地域住民の連携協力はあくまでも理想であり、その実現は容易ではないこと、時には保護者と学校、教員が激しく対立し、実力行使に及ぶ可能性すらあることを示すものと言える。突き放した言い方をすれば、どのように努力しても、どれだけ話し合いを繰り返しても、理解し合うことができないということだ。こうした対立から起きてしまった事件は過去にも存在する。

保護者対応は、教育委員会・専門家と連携したシステムづくりを

2008(平成20)年6月、神奈川県下の公立中学校において、家庭訪問に訪れた担任教員を足蹴にするなどして怪我をさせた疑いで保護者が逮捕された。また、同年12月には、やはり神奈川県下の公立小学校において、わが子に対する指導に憤慨した保護者が教室に侵入し、担任教員に暴言を浴びせたうえ、暴行を加え負傷させるという事件が発生している。

この事件では担任教員が保護者を相手として損害賠償の支払いを求める訴訟を提起し、暴行等の被害に関して100万円余の支払いを命じる判決が下されている(横浜地方裁判所判決平成26年10月17日)。

坂田仰(さかた・たかし)
淑徳大学総合福祉学部教授
立命館大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科公法専攻 博士課程単位取得退学。修士(法学)。日本女子大学教職教育開発センターを経て現職。専門は公教育制度論。日本教育行政学会理事、日本教育制度学会理事,日本スクール・コンプライアンス学会会長。教育委員会と連携し、教育裁判の分析を通じた学校の危機管理の改善に取り組んでいる。著書に『裁判例で学ぶ 学校のリスクマネジメントハンドブック』(時事通信社)、『四訂版 学校と法-「権利」と「公共性」の衝突-』(放送大学教育振興会)など
(写真:本人提供)

ともあれ、立川市での事件は保護者対応の転換点となるのかもしれない。学校と保護者の連携がつねに成立するとは限らない。この前提に立ち、新たな形態の侵入事件を想定した対応を模索する必要がある。仮に保護者の同行者であったとしても、不審者とみなすことを躊躇しない姿勢を持つ必要がある。

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