「子どもを義務から解放」お寺のフリースクールに見る"学びの多様化"最前線 不登校34万人超えの今考えたい「居場所づくり」

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プロの漫画家と一緒に絵を描いたり、自分たちでマルシェに出店して実際にお金を稼いでみたり。学校での学びとは違う学びがここにある。

タケノコ掘り、キャンプ、料理などさまざまなことを体験

「やる気があれば、座学は家で一人でもできますが、経験はそうはいきません。季節を五感で感じられる体験が何より大事だと思っています」(渡部氏)

その考えは大切にしつつも、この4月から勉強の時間を設けることになった。開始時の「安心できる場所の確保」から、「さまざまな体験で身体を動かし、食事や睡眠など生活リズムを整える」を経て、次のフェーズへ移行するタイミングだと感じたためだ。

「子どもたちには主体的に自分の人生をデザインしてほしい。そのためには、体験から得られる生きる力とともに学力も必要です。そこで、子どもとスタッフが集まる全校集会で『自分が学びたいところから始めてね』という話をしました。しかし、学習習慣がない子もいるので、スタッフが率先して一緒に学ぶような形をとっています」(児玉氏)

ただし、強制するのではなく、知識をつける学びの大切さを伝え、子どもたちと話しながら進めていくという。

自分の気持ちを話し、聞いてもらえることの大切さ

てらこやさんでは子どもたちと話す時間も重要視しており、1日の終わりにサークルタイムという名の“一日を振り返る時間”を設けている。その日に感じたことを自分の言葉で語る時間でもある。

サークルタイムでは自分の気持ちや感じたことを話す

「『あの子はこう感じたのか』と他者を知り、『自分はこれを楽しいと感じる』と自分を知ることにつながります。先日はある子が悩みを口にし、みんなで考える時間になりました。悩みが解決すること以上に大切なのが、その過程です。悩みを口にした子は自分のためにみんながこんなに考えてくれるんだという所属感を、周りの子は『こうしてみたらどうか』と意見を出し、この子のために貢献したことを実感できました。

学校では自分について振り返る時間がなかなか持てませんが、とても大切なこと。これを毎日積み重ねることで、子どもは『周りに聞いてもらえる、受け入れられている』『話したいことを話していいんだ』と思えるようになるのです」(渡部氏)

てらこやさんが始まっておよそ1年半。子どもたちの変化を渡部氏は「感情が豊かになり、さまざまなことにチャレンジするようになった」、児玉氏は「ピザづくりをしてみたい、プールに行きたいなど、やりたいことを口にするようになった」と話す。

てらこやさんでは再登校をゴールにはしていないが、開設から1年半が経ち、1人がここを卒業し、3人が再び学校へ行くようになった。チャレンジを後押ししたのは「何かあっても、てらこやさんがある」という安心感だ。

お寺のフリースクールで子どもと接する時間は、スタッフにとってもさまざまな発見があるようだ。渡部氏が言う。

「教員時代と違うのは子どもと向き合う時間が圧倒的に多いことです。教員時代は1クラス30人ですから、その日に話しかけられない子もいます。でも、ここでは『この子は今日どうしたんだろう』と思った時に話すことができます。子どもたちは自分の話を聞いてもらいたいもの。一人ひとりの話をじっくり聞けるのは大きいですね」

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