「アメリカ・ウクライナ経済協定」にはロシアを引き入れよ!それが欧州を安定させ、世界の「レアメタル争奪戦」を緩和させることになる

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さらに、今は激烈な戦争が続いているが、ロシアとの関係改善にも期待がかかる。石油や天然ガスだけでなく、豊富なレアメタル資源を持つロシアの産業界とも協力関係を持ち、EUも含めた「4者間での国際的な協力の枠組み」を構築することは、持続性のあるロシア・ウクライナ経済圏の発展に資するはずだ。ロシアを引き入れることで、こうした取り組みが、現在、レアメタルやレアアースを通して、覇権を握ろうとする中国への依存度を少しでも下げることにも寄与する。

「4者が納得」し、資源管理・安全保障の体制構築を

もちろん、残念ながら、こうした取り組みが簡単に進むとは現時点では考えにくい。前述のように、ロシアがレアメタルなどの鉱物資源の多くが眠っているとされる、ウクライナの東部3州を手放すどころか、同国の鉱物資源を手に入れ、国際的な影響力を回復しようとしているのは明白だからだ。

ウクライナとロシアの歴史的な経緯はもちろん、G7を中心とした「西欧陣営」よりも「グローバルサウス陣営」の影響力が増す厳しい国際政治の現実のなかで、何を吞気なことを言っているかといわれるかもしれないが、アメリカ、ウクライナ、ロシアの3者の「引くに引けぬ争い」を見せられると、筆者のような商人(あきんど)などは「日本の『三方よし』のような知恵も参考にできないか」と、ひとこと言いたくもなる。

すなわち、アメリカは今回のウクライナ資源の共同資源開発・管理を通じて、資源での優位性を利用しようとすることで、中国からの圧力緩和が実現できる。また、ウクライナはNATO(北大西洋条約機構)には入らずとも、アメリカとの枠組みをつくったことで、実質的な安全保障体制の維持が可能になる。

一方、ロシアはウクライナと紛争中の4州はともかく、東部の2州、ないしは南部の2州のどちらかについての権益確保を実現して、ウラジーミル・プーチン大統領のメンツが立つようにする。筆者に言わせれば、欧州とアメリカによる「NATOの東方拡大」がロシアを刺激したことも事実である。

「今、休戦すれば第2次大戦時に欧州がナチスドイツにとった宥和政策と同じになる」「休戦すれば体制を立て直して結局ウクライナを攻めるだけだ」という批判はもちろんあろう。だが、EUも今回のアメリカの関与によって、NATOの崩壊を免れ、ロシアの脅威が緩和されるのだから、「四方よし」とはいかないまでも、ここは休戦に進むべきではないか。

生成AIの進化に伴って半導体産業の重要性が増すなか、半導体製造に不可欠な素材として使用されるレアメタルやレアアースは今後ますます価値が高まり、資源争奪戦は新たな次元に入ることが予想される。

鉱物資源の争奪が進む中で、国際的な協力の必要性が認識され、資源管理や環境保護に関する国際的な枠組みや合意が形成されてはじめて、世界経済の持続可能な発展が可能になるはずだ。

それだけに、今回のアメリカとウクライナの鉱物資源の共同開発は、アメリカにとって戦略的な意味を持つと同時に、国際的な協力の重要性を再確認させるものである。今回の共同開発が、平和で安定した未来を築くための重要な一歩となってほしい。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

中村 繁夫 UMC Resources CEO

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なかむら しげお / Shigeo Nakamura

中堅商社・蝶理(現東レグループ)でレアメタルの輸入買い付けを30年間担当、2004年に日本初のレアメタル専門商社「アドバンスト・マテリアル・ジャパン」を設立、20年間経営。2022年8月、中央アジアの資源開発を目的としたUMC Resources設立。著書に『レアメタルハンター・中村繁夫のあなたの仕事を成功に導く「山師の兵法AtoZ」』(ウェッジ)、『レアメタル・パニック』(光文社ペーパーバックス)、『レアメタル超入門』(幻冬舎新書)などがある。

 

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