東京電力の抵抗で進まない原発事故賠償 「兵糧攻め」に苦しむ被災者たち
複雑怪奇な請求書類 中間指針が上限に
原発事故から11カ月たっても事故で被害を受けた地元住民への賠償は、遅々として進んでいない。文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会は昨年8月、賠償に関する「中間指針」を公表し、その翌月から東電は賠償請求の受け付けを開始した。東電は請求のための書類を約6万通送っているにもかかわらず、賠償金の支払件数はまだ2万件程度だ。
低調にとどまる最大の要因は、東電の賠償への消極的な姿勢にある。
東電が送付した個人用の賠償の説明書類は150ページを超える。わかりにくいとの批判を受け簡略版を提示したが、それでも請求書は60ページと膨大だ。項目も煩雑で、「とても手に取る気にならない」(年配の被災者)という代物。しかも当初、受領後は追加の請求を認めないなどとする文言を盛り込んでいた。
そもそも、中間指針には損害として盛り込まれなかった項目が少なくなく、賠償額の算定基準にも不明確な点が残る。たとえば被災者への慰謝料は月10万円が基本とされたが、これは交通事故時の自賠責保険の慰謝料を参考に決められたものであり、しかも半年後からは半額となるなど、少なすぎるとの批判が強い。
東電は、国の中間指針にない項目は賠償しないという姿勢を取り続けている。「中間指針の賠償基準は上限ではなく下限とされたはずなのに、東電が勝手に天井を決めてしまっている」(高梨弁護士)。
機能不全の原発ADR 和解案も東電が拒否
こうした東電側への不信感から賠償に合意できず、小野田さんのように、原発ADRへの申し立てを行う被災者も少なくない。だが、ここでも東電の壁が立ちはだかる。
小野田さんは1月末に1回目の協議に臨んだが、東電側の弁護士から、二男の再就職活動用のパソコンやその妻のタイヤ交換代の中身まで執拗に尋ねられた。「就活にパソコンが必要なのか、タイヤ交換ぐらい自分でできなかったのかと、嫌がらせのような話ばかりされた」と憤る。