「失明するリスクがあると聞いて慌てていたため、何も考えずに病院を選んでしまった。結果的に差額ベッド代が……目よりも“懐”が痛かったです」と鈴木さんは苦笑いする。
すぐに病院を決めないといけないときに冷静な判断をするのは難しいが、何事でもあわてず、いったん落ち着いて考えたほうがいいという教訓になったそうだ。
眼科医で、立川髙島屋S.C.眼科の院長である宮本桂一医師によると、網膜剥離のリスクにはいろいろなものがあり、その1つが強い近視だという。
「眼の奥行きである『眼軸(がんじく)』は、正常眼だと約24mmですが、強度近視眼では約27mm以上と長くなるため、内側にある網膜が伸ばされ薄くなる。それで、網膜に孔が開いたり破れたりしやすくなるのです」(宮本医師)
この眼球の形は生まれつきであることも多いため、そういう意味では間接的に遺伝も関係しているともいえる。
もう1つのリスクは、老化だ。
「後部硝子体剥離」といって、眼球の中を満たしているゼリー状の硝子体が加齢により液状化すると、縮んで眼球の前側に寄りやすい。これにより、硝子体が網膜から分離することがあるが、このときに何らかの原因で硝子体がきれいに剥がれず、網膜に損傷を与えてしまうと、網膜裂孔から網膜剥離に進む場合がある。
レーシックと網膜剥離の関係
鈴木さんは医師から「レーシックは原因ではない」と言われたが、宮本医師は、「レーシック術が網膜剥離を引き起こすこともある」と言う。
「レーシック術では眼に吸引をかけて一時的に圧を上昇させる過程がありますが、強度近視で網膜の薄くなった箇所に孔や裂け目があった場合、吸引圧により網膜剥離に進行する可能性があります」(宮本医師)
このほか前述したように、アトピー性皮膚炎や花粉症で目を強く掻いたり、目をぶつけたりなどの外的な力も網膜剥離の原因となる。「鈴木さんのケースは強度の近視、加齢、花粉症などが重なっているため、高リスクだったのでしょう」と宮本医師は言う。
網膜剥離の治療には、①網膜の孔をレーザーで焼いて塞ぐ「光凝固術」、②網膜の剥がれた部分を元の位置に戻してレーザーで固める「網膜復位術」、③網膜剥離の際に生じた出血によって濁った硝子体を取り除き、網膜の剥がれた部分を元の位置に戻してレーザーで固める「硝子体手術」がある。