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〈今週のもう1冊〉『奴隷・骨・ブロンズ 脱植民地化の歴史学』書評/日本の根深い欧米中心史観、負の側面に対する視点の欠落

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『奴隷・骨・ブロンズ 脱植民地化の歴史学』井野瀬久美惠 著
奴隷・骨・ブロンズ 脱植民地化の歴史学(井野瀬久美惠 著/世界思想社/2970円/272ページ)
[著者プロフィル]井野瀬久美惠(いのせ・くみえ)/人間文化研究機構監事・甲南大学名誉教授。博士(文学)。第23期(2014〜17)日本学術会議副会長。1958年生まれ。大英帝国を中心に、(日本を含む)「帝国だった過去」とわれわれが生きる今という時空間との関係を多方向から問う研究を続けている。

コロンブス、ナポレオン、ベートーベンに扮した3人が類人猿を「啓蒙」するシーンの含まれたミュージックビデオ(MV)がSNSで炎上状態となったのは2024年6月のこと。同年末に2年連続で日本レコード大賞を受賞することとなる3人組ロックバンドの楽曲だった。

西欧人による啓蒙や開拓事業には歴史的に負の側面があり、例えば奴隷貿易や文化財略奪、さらには人種差別等々の影響は今も続く。それなのに安易なMVを制作するのはいただけないというわけだ。

著者はこの事例に、日本に深く根付く欧米中心史観を見いだし、最低限の歴史学的素養が今や若者に欠落していることを嘆く。その原因として、高校世界史が他科目に比して敬遠されている点、世界史未履修問題、ネット上で歴史的知識を得られるがゆえに若い世代がそれを自らの脳裡(のうり)に刻む必要を感じていない点を挙げる。

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