高給と快適な生活を捨て、台湾青年医師はなぜ帰郷したか

実は徐さんには悲しい体験がある。3歳年下の妹が7歳のとき、はしかから急性肺炎を併発、幼くして亡くなった。地元に医師がいなかったため、治療が遅れたのだ。

徐さんは達仁に戻ると、スーパーマンのように昼夜なく働き続けた。僻地医療を中断させないため、夜間も診療し、土日も休まない。彼は毎日、台東県の県庁所在地である台東市から達仁に出勤。そこから達仁の各集落を巡回して診察する。寝たきりの病人や、衛生所までの交通費が払えない病人がいるからだ。

公立病院向け補助金が大幅削減

徐さんを例外として、台湾の若い医師は僻地に赴任しようとしない。しかし、台湾の最南端、屏東県の恒春基督教医院では、香港出身の医師、そしてリタイア後に帰ってきた老医師が医療に携わっている。いずれも高給と快適な生活を捨てて、ここにやってきた人たちだ。

この病院は、もともとフィンランドからのキリスト教宣教師が1956年に開設したものだ。しかし、それを引き継ぐ医師がいなかった。

現在の院長の黄健栄さんは香港出身で、台湾で医学を学んだ。13年前、カナダに移民する家族を送り出してから、1人台湾に残ってこの病院にやってきた。貧しい家に生まれた黄さんは、自分が苦労しただけに、高齢者、子供、先住民といった経済的弱者の気持ちがよくわかる。

台湾では医療資源配分の地域差が非常に深刻である。台東県では、この達仁を含む太麻里以内の四つの郷・鎮(町村に相当)1万8000人の住民に対し、病院は一つもない。台湾で最も医療の立ち遅れた地区だ。徐さんは今、この地区に病院を開設する夢を描く。まずは救急センターを設置するという考えだ。

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