
「インベーダー(侵略者)や海賊、スター・ウォーズのダース・ベイダーのように、不用意に(日系自動車メーカーから)警戒されている。完全に濡れ衣だ」
ホンダと日産自動車の経営統合協議が浮上して以降、公の場に姿を現さなかった‟あの男”が4月9日、都内でついに沈黙を破った。台湾の電子機器受託製造大手・鴻海(ホンハイ)精密工業で電気自動車(EV)事業を率いる関潤氏だ。
関氏は日産に33年間務め、2019年にナンバー3の副最高執行責任者(副COO)への就任が決まった直後、日本電産(現ニデック)へ電撃移籍。その後、2023年に鴻海へ移りEV事業の最高戦略責任者(CSO)を務めている。
古巣の日産への出資を狙い大株主の仏ルノーと交渉していたことが台湾メディアに報じられるなど、2月に破談となった日産とホンダの統合協議に大きな影響を及ぼしてきた関氏だが、「いろいろな誤解を受けている」と強調。この日は、都内のホテルで約1時間40分にわたり、自動車業界やメディア関係者向けに鴻海のEV戦略について熱弁を振るった。
「われわれはEV屋で、日本はオポチュニティ(機会)が大きい。よりシナジーのあるところとがっぷりやりたい」と、改めて日本の自動車メーカーに対して秋波を送った。
EVでITの成功モデルの再現を狙う
鴻海は、顧客である自動車メーカーからEVの設計・製造までを一気通貫で受託する「CDMS」と呼ぶビジネスモデルを掲げている。アップルへスマートフォンを、マイクロソフトやアマゾンへAI(人工知能)サーバーを供給し、急成長を遂げてきたのと同様の成功体験をEVでも再現しようとしている。
関氏は古巣の日産から、軽EV「サクラ」でプログラムダイレクター(商品責任者)を務めた住江実氏をはじめ複数の人材を鴻海に引き抜いてきた。三菱自動車工業出身で世界初の量産EV「i-MiEV(アイ・ミーブ)」開発を手がけ、後にニデックで車載事業を率いた早舩一弥氏も現在、鴻海で関氏の右腕として動くなど、EVのプロ人材を集めている。