しかも時間に追われているときほど、自分の能力を実践で使う可能性は低下しているという。「セールス業務では日々のノルマを達成できなければ、職を失う可能性がある」と、ある匿名の調査参加者は話した。「時間を節約するためにAIを使う。結果をじっくり考える余裕はない」と述べた。
アンソロピックも最近、同社のAIモデル「クロード」がどのように使用されているかを調査。その結果、クロードが会話で発揮したトップスキルは「批判的思考」であることが明らかになった。
労働者はAIが生成した結果の管理責任者に
描き出されたのは、専門職の労働者が新たなアイデアやコンセプトを生み出すのではなく、AIが生成した結果の管理責任者になる将来像だ。AIモデルが進化すれば、この傾向は顕著になる。オープンAIが月額200ドルを課す最新型モデル「ディープリサーチ」は、インターネット全域で画像やPDF書類、テキストをくまなく調べ上げ、引用を付けた上で詳細なリポートを生成できる。
ドイツ銀行は2月12日付けの投資家リポートで、頭脳労働が急速に変化していくことを示す研究を紹介した。「人類はAIエージェントに正しいやり方で正しい質問をすることで見返りを得、自分たちの判断でその回答を評価し、繰り返すことになるだろう」と、リサーチアナリストのエイドリアン・コックス氏は執筆。「そのほかの認知プロセスは、大部分がしなくてもよくなる」と述べた。
ソクラテスはかつて、文字を書くことが記憶力の低下につながると心配していた。電卓もかつては、私たちの計算能力を奪うと懸念されていた。衛星利用測位システム(GPS)ナビゲーションのために、私たちはスマートフォンなしでは目的地にたどりつけないとの指摘もある。最後の指摘は幾分か当たっているかもしれない。しかし人類は計算能力やナビゲーションスキルで怠けているとしても、これまで思考を外部に委託しながら他の用途に脳を活用してきた。
AIがこれまでと異なるのは、日々の認知活動における侵入範囲がはるかに広い点だ。扱いに注意を必要とするような電子メールを書く、あるいはリポートのどこを注意点として上司に指摘するかを決める、といった作業では、合計を計算したり目的地への行き方を調べたりするよりはるかに頻繁に批判的思考が必要とされる。そのために他の重要な専門的な仕事を遂行する余裕がなくなる、もしくはプロパガンダの影響を受けやすくなる。ここでもう一度、なぜオープンAIのGPTモデル販売で利益をあげるマイクロソフトが、こうした調査結果を公表したのかという疑問に立ち戻る。