大学入試で優位な面も、授業料無償化で人気低迷の「都立高」知られざる魅力 私立単願に落とし穴、「指定校推薦枠」にも注目
同校の元校長は、「大学入学後の成績が優秀で、早期から専門教育を受けた生徒たちは、大学の実習でもリーダーシップを発揮します。だからこそ、大学側も高く評価してくれているのです」と語る。
何よりも印象的だったのは、実習に打ち込む生徒たちの目の輝きだ。普通科の授業ばかり見学している私にとってはカルチャーショックだった。
東京都には、こうした穴場の専門高校が網の目のように存在している。科学技術科では大学並みの設備を活用し、国公立大学の総合型選抜や理工系指定校推薦枠が充実。商業科は商学部や経済学部への進学ルートが強固で、工業科は四工大などの中堅理系大の推薦枠を多数保有する。
都立飛鳥高校や都立千早高校のような、中堅高校からでも海外大進学が可能な国際系・語学系高校もある。都立大島国際海洋高校では大型船を所有し、実習に活用するなど、ユニークな教育内容が展開されている。
こうした“個性に全振り”の専門高校は、進路がまだ定まらない12歳で選ぶ中高一貫校には存在しない。進路の展望がより明確になる15歳の高校受験ならではの多様性だ。
「私立高校よりも指定校推薦枠を取りやすい」
学力中位層以下にとって、指定校推薦は大学進学希望者の重要な指標になっている。その実情をよく知る、ある地元塾の先生はこう指摘する。
「正直に言うと、私立高校よりも都立高校のほうが指定校推薦枠を取りやすく、大学進学で優位に立てる場面が増えています」
この言葉を裏付けるデータがある。都内最大規模の模擬試験「Vもぎ」(進学研究会)の偏差値50前後の都立高校における推薦型入試(指定校・公募制・総合型)での大学進学率を見てみよう。
鷺宮高校(中野区):43%(2024年3月卒)
杉並高校(杉並区):47%(2024年3月卒)
半数が推薦型入試を利用して大学へ進学している。そのうち、詳細な指定校推薦保有数を公表している杉並高校を例に挙げよう。昨春、50人の生徒が指定校推薦枠を利用しているが、同校の指定校推薦枠の保有状況は下記のとおりだ(推薦枠の保有数は変動の可能性がある)。
出所:『東京都高校受験案内 2024年度用』(声の教育社)
大学入試に詳しい人が見れば、その充実ぶりがわかるはずだ。中でもつながりの強い成蹊大学への枠数は特筆に値する。また、理系では芝浦工業大学や東京都市大学など、いわゆる四工大の推薦枠が充実している。これだけの推薦枠を持ちながら、同校は説明会やWebサイトで積極的にアピールしていない。そのため、成蹊大学ルートなどは一部の関係者の間でしか知られていないのが実情だ。
一方で、杉並高校との併願者が最も多く、ライバル関係にある私立C高校の主な指定校推薦枠の保有状況はこうだ。
出所:『東京都高校受験案内 2024年度用』(声の教育社)
私立C高校は、杉並高校よりも1学年の生徒数が約70人多い。単願入学者の増加に伴い、今後は生徒数がさらに増大し大規模校化する可能性もある。だが、生徒数の増加が指定校推薦枠の増加につながるわけではない。私立高校で指定校推薦枠を獲得する難しさを地元塾の先生が指摘する理由も理解できるだろう。