「人手不足」は本当か?データからわかる現実とは 労働市場に低待遇で舞い戻ってくる人々の存在
非常に不思議なことに、新型コロナ禍以前は有効求人倍率の急激な上昇が注目されたのに、2023年以降の求人倍率の着実な低下は等閑視されてきた。その事情としては、「人手不足」という市場実感にそぐわなかったこととともに、日銀短観の雇用人員に関するDIが2023年以降も不足方向に傾いてきたことが考えられる。
ただし、日銀短観であっても、製造業の中堅企業や中小企業の不足程度は、2023年以降、新型コロナ禍以前の水準に到達することはなかった。
有効求人倍率の低下傾向が深刻に受け取られなかったもう1つの理由は、失業率が大きく上昇しなかったからである。
通常、求人倍率の低下は失業率の上昇を伴う。仮に求人倍率が低下しても失業率が上昇しなければ、少ない求人であっても失業者が順調に職に就けているとポジティブに受け取られるであろう。
欠員率が下がっているのに失業率が上がらない謎
ここで労働経済学の慣行に従って、通常の完全失業率に代わって雇用者失業率(注)を用いることにしよう。
雇用者失業率は、2020年の1年間で2.5%から3.5%へと大きく上昇した。2022年には低下に転じたが、2023年初以降、新型コロナ禍以前の水準まで回復することなく、2.7%から3.0%のレンジで推移してきた。
求人と失業の関係を詳しく見るために、横軸に雇用者失業率(unemployment rate)、縦軸に欠員率(vacancy rate)をとったUV曲線を描いてみよう。
ここで欠員率は、求人数から就職件数を引いた欠員数から導いている。「欠員率=欠員数/(欠員数+雇用者数)」。したがって、求人数が増えれば、欠員率も上昇する。
2019年から2020年にかけては欠員率の低下が失業率の上昇を伴っており、逆に、2020年から2022年にかけては欠員率の上昇が失業率の低下を伴っている。両期間の動向は、典型的なものである。
しかし、2023年以降は、欠員率が低下傾向にあるにもかかわらず、失業率には明確な上昇が認められない。
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