北海道新幹線、難航する「トンネル工事」の実態 軟弱地盤や巨大岩出現、地質に工法が合わない

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工期を決めるためには、地質不良の区間があとどのくらい続くのかを見極める必要がある。そこで、前方の地質状況を事前に把握するべく両工区で長尺ボーリング調査を始めた。それぞれ前方500mを調査する予定だったが、台場山工区では301mの時点で、南鶉工区は183mの時点で削孔ができなくなった。長尺ボーリング調査すらままならいほどの地質不良だったのだ。

そのため、今後は人工的に発生させた磁場を利用して地盤の性質を調査する空中電磁探査など別の調査方法も活用しながら調査、分析を続ける。

軟弱地盤であればシールドマシンによる工法に転換したほうがいいではないか、とJRTTの担当者に尋ねたところ、「現時点では転換までは検討していない」とのことだった。シールドマシンを使うとなると、機械の組み立てに年単位の時間がかかる。しかも巨額の追加費用が発生する。現在は「NATMで少しでも合理的、効率的な工事ができるような方法を探っている段階」という。

北海道新幹線 豊野トンネル
NATM工法で建設された新八雲(仮称)ー長万部間の豊野トンネルの建設中の様子。同トンネルは2023年3月に貫通した(記者撮影)

再び岩塊が掘削阻む「羊蹄トンネル」

長万部駅と倶知安駅の間に設けられる羊蹄トンネル(全長9.7km)は倶知安方から掘進中の比羅夫工区(5.5km)と新函館北斗方から掘進中の有島工区(4.1km)からなり、どちらもSENS工法で工事が進められている。

SENSとは円筒形のシールドマシンを使って掘削を行い、掘削が終わると同時にコンクリートでトンネル内面を覆う工法。硬い地盤を掘り進むNATM工法と軟弱地盤を掘り進むシールド工法の中間と考えればわかりやすい。しかし2021年7月、比羅夫工区で10mを超える巨大な岩塊が出現し、掘削がストップした。

硬い岩塊を掘削するとシールドマシンの刃が破損する危険がある。ルート上にこうした岩塊がほかにもあるか事前に調べる必要がある。そこで、地上から電磁波や、地盤打撃時に発生する弾性波を用いて地質を探査したところ、比羅夫工区と有島工区ルート上には9カ所で掘進に影響する可能性がある岩塊の存在が確認された。ただ、その後に9カ所を詳細に調査したところ、撤去が必要な岩盤は3カ所で、残り6カ所は「掘進が不可能というほどではない」という。

工事を妨げた巨大岩塊については、シールド機の後ろから岩盤に向かって迂回する小断面のトンネルをNATM工法で掘削し、到達後に岩塊を細かく砕いて2023年3月に迂回トンネルから除去した。その後は迂回トンネル埋め戻しなどの整備を終え、2023年11月、2年4カ月ぶりに掘削を再開した。比羅夫工区の11月時点の掘削進捗率は69%。2019年4月に着工を開始し、2024年8月の完成を目指していた。

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