いまや年内入試の入学者は半数を超える

「一昔前とは違う最近の大学入試」。メディアでよく見かける見出しです。大きな流れとして、年明けに行われる一般選抜入試ではなく、年内に行われることが多い学校推薦型・総合型選抜入試が主流となりつつあります。

文部科学省の「令和5年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要(令和5年11月29日)」によると、2023年度の国公私立大学の入学者のうち、学校推薦型の割合は35.9%、総合型のそれは14.8%。両者を合わせると半数を超えます。

とくに、私立大学に限ればその割合はもう少し高く、6割弱。そのうち、学校推薦型の割合は41.4%、総合型のそれは17.3%です。また、短期大学ではその割合が非常に高く、学校推薦型の割合は53.3%、総合型は32.4%となっています。

この数字が示すところは、大学に入学するための試験対策が変わってきているということです。一般選抜入試を選ばないという選択肢があり、学校推薦型・総合型選抜入試を選ぶのであれば、それに対応する準備が必要ということになります。

前者と後者では、入試の時期だけでなく、その準備の仕方がまったく違います。(わかりやすさを優先して)ざっくりと言うと、一般選抜入試では暗記した知識を問うものが中心であるのに対し、学校推薦型・総合型選抜入試では論理的な思考力が試されます。とくに、小論文や面接などの試験を課すことが多いのが後者の入試の特徴です。

客観的なデータに基づいて結論を導く問題が増えている

では、こうした入試に対応するにはどのような準備をすればよいのでしょうか?

友原章典(ともはら・あきのり)
青山学院大学 国際政治経済学部 教授
ジョンズポプキンス大学大学院Ph.D.(経済学)取得。カリフォルニア大学ロザンゼルス校(UCLA)経営大学院、ピッツバーグ大学大学院、およびニューヨーク市立大学等の勤務を経て、現職。世界銀行や米州開発銀行にてコンサルタントを経験。主な研究分野は経済政策、応用経済学。近著に『データリテラシー入門:日本の課題を読み解くスキル』(岩波ジュニア新書)
(写真:本人提供)

入試問題は大学からのメッセージであることがヒントです。将来の日本社会を担う人材の育成が期待される大学では、それにふさわしい学生の入学を望んでいます。

このため、小論文のテーマには日本が直面する課題を取りあげて作問したり、面接でもそうした課題に関する質問をしたりすることが多くあります。そして、与えられたテーマについて、自分の考えを矛盾することなく答えることが求められます。

こうした与えられたテーマについて自分の考えを述べるスタイルの問題への対応はそれほど難しくなく、自分たちが住む社会についての問題意識を持っておけばよいでしょう。

ただ、最近増えてきている、そして今後も増え続けるであろう問題形式には、少し注意が必要です。

それは数字や文章などの資料、つまりデータが与えられて、それを使って論理的に考える問題です。これまでのように「自分はこう思います」という主張ではなく、客観的なデータに基づいて結論を導くスタイルの問題が増えてきているのです。

データの使い方次第で印象が操作されることに注意が必要

例えば、次の例題を考えてみましょう。「少子化が懸念される日本ですが、図を見ると、女性の社会進出が高い国ほど出生率も高い傾向があります。このため、男女雇用の機会均等を推進して女性の社会進出が進めば少子化が緩和されると言ってよいでしょうか。ここにある情報(つまり図)のみに基づいて○○字以内で記述しなさい。」

相関関係は因果関係とは違うことを理解しているかを試す問題です。実は、図からだけでは、女性の社会進出が進んだから出生率が高まったとはいえません。例えば、保育施設が整備されて、女性が働きやすくなったり、子どもを産みやすくなったりしたとすると、保育施設の整備が原因で、女性の社会進出と出生率の増加は2つとも結果になるからです。

この例題は『データリテラシー入門:日本の課題を読み解くスキル』(岩波ジュニア新書)からの引用なのですが、世間一般では誤った議論をよく見かけます。図を見ていると女性の社会進出が進めば少子化が緩和されるように思ってしまうかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。

次の例題はどうでしょう。「環境に配慮した取り組みが企業に期待される中、2030年までに、企業Aは自社の製品の製造過程で排出される温室効果ガスの65%削減を、企業Bは20%削減を目標として掲げています。65%>20%より、企業Aはライバルの企業Bよりも温室効果ガスの削減に積極的だと言ってよいのでしょうか。」

これは基準に関連する問題です。何かを比較する時には同じ基準を使わないと意味がありません。

例えば、企業Aは自社の温室効果ガス排出量がピークであった1980年の排出量1500トン、企業Bは直近2020年の700トンに比べて、年度の排出量をそれぞれ35%(=100―65)や80%(=100―20)の水準にまで下げる目標を掲げているかもしれません。

仮に1980年の企業Bの温室効果ガス排出量が5000トンであり、これまでにも排出量の削減努力をした結果が2020年の700トンだとすると、2030年の排出量を560トン(=700×0.8)にするということは、88.8%(=(5000-560)÷5000)の削減目標となります。

65%と20%を比べると企業Aのほうが削減に貢献している印象を受けますが、65%と88.8%を比べると明らかに企業Bのほうが削減に貢献しています。同じ基準年を使わないと意味のある比較ができないのがわかります。

当たり前だと思われるかもしれませんが、現実の世界ではそうでもないようです。いくつもの国が温室効果ガス排出量の削減に取り組んでおり、排出量の削減目標を%で示しています。ただ、%の計算に使われた基準年は共通ではなく、排出量が多かった年を基準にして削減目標を計算している国もあるのです。

いろいろな人がネットで意見を言えるようになり、情報が氾濫する現代社会において、大事なことは情報の真偽を判断する能力です。データを示されると正しいような気がしますが、データの使い方次第で印象が操作されることに注意が必要です。

実は、一般選抜入試を含む最近の入試で問われるのは、こうしたデータリテラシーです。データの正しい読み方といってもよいでしょう。

ただ、この手の問題は受験対策のしようがないと嘆かれているあなた。心配はいりません。データを読む際に気を付けるべきポイントはそう多くはないのです。

早い段階から周囲の情報を活用して自ら考える訓練が有効

例えば、折れ線グラフや棒グラフといった図のデータであれば、トレンドを把握したり、急に数値が変化するところに着目したりするとよいでしょう。数値を羅列する表のデータであれば、基準となる数値を100として考えることに慣れるとよいでしょう。

しかし、知識の詰め込みと違って、このような思考のスキルは一朝一夕には身につきません。訓練は早くから始めるに越したことはないでしょう。高等学校までの教育においても、その役割が期待されています。

社会的課題に関するデータを使って議論する授業はいかがでしょうか。筆者はアメリカのいくつかの大学で教えてきましたが、日本の学生には少し物足りなさを感じます。論理的に考えられるようにするためには、海外のように早い段階から周囲の情報を活用して自ら考える訓練が有効だと思います。

こうした訓練は一部の先進的な学校では取り入れられているようですが、すべての学校でとまではいかないようです。そこで、個人でできることとして、ニュースを見ながら、今示されたデータは本当にキャスターの主張を裏付けるものなのかと考えてみましょう。意外とそうでないこともあるかもしれません。

最後に、データを正しく読みこなす能力は入試だけでなく、その後の人生においても役に立つ能力です。情報があふれかえる現代社会でデータにだまされないためにも、多くの人に習熟していただきたいスキルだと考えています。

(注記のない写真:Graphs / PIXTA)