ファン心理を格好の餌食にする「転売ヤー」の実態 総額「600万円超」で仕入れられた"羽生グッズ"

✎ 1 ✎ 2
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

しかしLは、予約時にメールアドレスを使い分けることで、この制約を易々と突破していた。近年、転売ヤー対策として事前予約や事前登録を求められることも多いが、この方法を使えば、多くの場合、複数名義で予約を取ることが可能なのだ。

名義は、念のためそれぞれ異なる偽名で予約していた。しかし、会場では予約時に発行されたQRコードを提示して入場するだけで、身分証の確認などはなかった。中へ入るとLは展示物には目もくれず、物販コーナーに直行する。

「転売行為はお控えください」。壁にそう張り紙がされたその場所で、彼女は展覧会写真集やトートバッグやストラップ付きフィギュアなどをどんどんと買い物かごへと放り込んでいく。

一見、手当たり次第に見えるが、実は同じ商品を5点ずつ選んでいる。同一商品の購入は、一人当たり5点までに限定されているからだ。他の客からは冷たい視線が刺さる。

入場するたびにこの調子で大量購入しているLは、何人かの店員の顔を把握している。特に転売行為について釘を刺すようなことを言われたことはない。

この展覧会に転売目的で来場している客は、彼女だけではなかった。Lはこれまでに、日本人の転売ヤーとみられる来場者も何度も目撃していた。先ほども、過去に限定品の販売会場で何度か顔を合わせている中国人と出くわしたばかりだ。

展覧会での仕入れ総額「600万円」超

この日購入したのは、約200点しめて23万円超。最終日で品切れの商品もあったため、少な目だ。Lがこの展覧会のグッズ売り場での「仕入れ」に費やした金額は、600万円を超えている。

日本国内では、Lのような転売ヤーの存在に業を煮やした羽生ファンたちは、Twitter(現在のX)上で転売品の購入を控えるよう呼びかけあっていた。また、同展の限定グッズを高値で出品したフリマサイトのアカウントが、SNS上で晒されるなどということも行われていた。

確かにLには中国という国外の売り先がある。しかし総額600万円分ものこまごました雑貨がそれほど売れるものなのか……。

結果から言うと、彼女は、20日間で仕入れた羽生グッズを2カ月あまりで全て売りさばいた。売上の総額は約800万円。単純計算で200万円を儲けたことになる。

しかも彼女は、日本橋髙島屋の後に行われた名古屋と大阪での展覧会にも足を運んで仕入れた約300万円分も完売し、400万円を売り上げた。東京分と合わせて計300万円の儲けである。

Lがこれだけの儲けを出した背景には、“生配信”がある。微博で羽生関連商品に商機があると判断した後、彼の情報を配信するアカウントを中国の若い女性に人気のSNS・小紅書で開設。

以前から、日本のメディアが取り上げる羽生関連の情報を翻訳して投稿して地道にフォロワーを獲得していった。同時に、羽生特集を組んだ雑誌や、彼の写真が使用されている企業の販促グッズの転売も行っていたのだ。

フォロワーは800人ほどで頭打ちとなったが、購入意欲は高かった。フォロワーから「柚子がイメージキャラクターを務めるこんな商品が発売されるからぜひ入手してきて」と、要望を受けることもあった。

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事