好調な台湾経済、中国「過剰生産」に抱く危機感 中国の「経済的威圧」にどう対抗するかに直結

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頼総統の国慶節演説が行われた翌々日の10月12日にも、中国商務部報道官はさらなる措置の発動を検討していると発表し、頼政権に圧力をかけている。それを受け、台湾の対中政策調整・執行機関である大陸委員会は、紡織、石油化学、鉄鋼分野の過剰生産を解決するために中国が台湾への経済制裁を利用してくることに注意が必要だと警鐘を鳴らしている。

中国の過剰生産能力問題がもたらす経済的・政治的影響に台湾はいかに立ち向かうのか。即効薬は限られている。アンチダンピング課税などWTO(世界貿易機関)で認められた貿易救済措置で一定の手当は可能だが、WTOルールを逸脱した過度な対中貿易制限措置は中国からの報復を招きかねないからである。

WTOを使って中国を刺激したくない台湾

また、WTOを使って、過剰生産能力問題の背後にある中国の補助金政策等の是正を迫ることも難しい。台湾は、WTOの貿易政策検討会合を通じて、中国の補助金が台湾の太陽光パネル産業や鉄鋼業などに実害をもたらしている、中国は市場歪曲的な補助金を抑制すべきだと指摘してはいるが、WTOの紛争処理メカニズムに持ち込むことは避けている。

中国を強く刺激することを回避するためだと推察される。「一つの中国」の原則を掲げる中国側は国際機関であるWTOを通じて台湾との貿易紛争を解決することに強く反発している。

冒頭で述べたように、中国の過剰生産能力に対する懸念の高まりは、高関税賦課など中国製品の輸入抑制の動きを国際的に引き起こしつつある。それは確かに台湾企業にとって他国市場の開拓の好機となりうる。それを意識した先進諸国等との貿易・投資協力強化の動きも民進党政権によって進められてきた。

ただし、台湾の輸出総額に占める対中輸出(香港向けも含む)のシェアは31.2%と依然高く(2024年1~9月)、中国市場での競争力維持・強化も同時に図らなければならない。そのためには、中国製品との差別化を図っていくよりほかない。それは他国市場での競争力強化にも資する。台湾企業による差別化をいかにサポートしていくべきかを頼政権は問われている。

現在、頼政権は、諮問会議などを集中的に開き、産業政策、経済安全保障政策の肉付け作業を急いでいる。少数与党政権ゆえ難航が予想される予算案の審議と併せ、中国の過剰生産能力問題に対する台湾の抵抗力強化に向けた動き、それが日本に与える影響を注視する必要がある。

伊藤 信悟 国際経済研究所主席研究員

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いとう・しんご

1970年生まれ。東京大学卒業。93年富士総合研究所入社、2001年から03年まで台湾経済研究院副研究員を兼務。みずほ総合研究所を経て18年に国際経済研究所入社。主要著書に『WTO加盟で中国経済が変わる』(共著、東洋経済新報社、2000年)、主要論文に「BRICsの成長持続の条件」(みずほ総合研究所『BRICs-持続的成長の可能性と課題-』東洋経済新報社、2006年)、「中国の経済大国化と中台関係の行方」(経済産業研究所『RIETI Discussion Paper Series』11-J-003、2011年1月)など。

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