「よく他教科の先生に、『いつもおいしいものをつくって、本当にいいわねえ』などと言われます。家庭科にそういう認識を持っているのだなと思いますね」
まるで趣味やレジャーのような言い方をされては当然不服だが、1年契約の非常勤講師が反論するのは難しいと平野さんは言う。地縁の強い地域社会ということもあり、身を守るためになるべく自分からは話しかけず、「すみません」「お願いします」「ありがとうございます」だけで済ませるようにしているという。
技術科教員の威圧的な態度に疲弊する日々
平野さんが「身を守るために」と口にするのは、過去に技術科教員からモラルハラスメントを受けたことが影響している。
「当時、生徒の成績は技術科と家庭科でそれぞれ点数化し、合計を2で割って算出していました。パソコンが得意でなかった私にも非はありますが、点数をうまく表計算ソフトにまとめられなかったんです。そうしたら自宅にまで電話が来て、『このボケカス』などと高圧的に罵詈雑言を浴びせられました」
授業に口出しされることも珍しくなかった。「荒れたクラス」の担任をしていた別の技術科教員は、「女性は調理と被服しかできない」と決めつけ、消費者トラブルについて書いたパンフレットを「こういうのも読め」と投げつけたという。実は平野さんは経歴的に民法に詳しいのだが、それを知らずに偏見で嫌がらせを受けた。
「同じ『技術・家庭』なのに、私が今まで出会った技術科教員は、家庭科教員に威圧的な方が多かったです。予算も、技術科の教材費が高いのは理解していますが、あまりに当然のように技術科に配分が偏っていました。技術科の先生はほとんどが男性で、家庭科は女性が多いこともあり、ジェンダーギャップを感じたこともありました」
そもそも教科名が「技術・家庭」で、「家庭・技術」と呼ばれることがない点からも技術科偏重を感じると語る平野さん。もちろん、技術科教員が必ずしも恵まれた環境にあるわけではない。こちらの記事でも紹介したように、2024年2月には文部科学省が、全国の公立中学校で技術を教える教員の23%が正規免許を持っていないと公表した。
一方で、家庭科教員の実態が置き去りにされているのも事実だろう。家庭科の教員免許を取得できる大学は全国に89(2023年4月1日現在 ※1)と全体の約8%(※2)しかないにもかかわらず、技術科と違って免許状所有状況の調査すら行われていない。
※1 文部科学省「令和5年4月1日現在の教員免許状を取得できる大学 中学校教諭・高等学校教諭(一種免許状・二種免許状)」より
※2 文部科学省が今年8月に公表した「学校基本調査(速報値)」によれば、大学と短期大学は合計1110
家庭科の時間に「国語や英語」を教える学校も
実際、平野さんの地域は、家庭科の十分な指導体制が整っているとは言い難い。家庭科の専任教諭がいないばかりか、非常勤講師も確保できていない中学校すらある。