「ロシア以外にも」北朝鮮人民軍海外派遣の軌跡 空軍パイロットなど中心に中東・アフリカ諸国で実績

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一方、エジプトは1973年の第3次中東戦争(1967年6月5日~同年6月10日)でイスラエルにシナイ半島を占領されるなど惨敗した。そのエジプトでは、さかのぼること3年ほど前の1970年9月にアンワル・アル=サダート氏が大統領に就任。次なるイスラエルとの戦争に向けて、ソ連の支援を受けながら準備を進めていた。

ところがサダート氏は、ソ連が武器支援などの約束を実行しないなどの理由で、ソ連軍事顧問団の撤退を要求した。これにより、ソ連軍が引き揚げることになる。ミグ21戦闘機75機を運用していたソ連軍パイロット100人も去り、エジプト軍は深刻なパイロット不足に陥った。

「ロシア派兵」を自ら認めるか

そのような中、1973年3月1日から7日まで北朝鮮政府代表団がエジプトを訪問し、エジプト軍総参謀総長だったサアド・アル=シャーズィリー氏とスエズ前線などを視察した。このとき、シャーズィリー氏が「エジプト防空のために朝鮮人民空軍の飛行中隊を派遣してくれないか」と要請した。

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北朝鮮軍が保有するミグ21戦闘機。2016年撮影(写真・福田恵介)

その後、シャーズィリー氏も訪朝して金日成主席と会談。積極的な要請の結果、北朝鮮空軍のエジプト派遣決定された。この時、北朝鮮の防空用地下施設に感銘を受けたシャーズィリー氏は、北朝鮮工兵の派遣も要請している。

北朝鮮はベトナム戦争のときには派兵を発表したが、中東戦争では徹底して秘密を貫いた。金日成氏は、「エジプト・北朝鮮間の親善関係強化が目的だ。派遣情報はもらさないように」 と部隊に厳命している。

1973年8月15日にイスラエル軍が「エジプトで朝鮮人民空軍の存在を探知した」と発表すると、北朝鮮はイスラエルの発表に反論し、その存在を否定している。

今回、韓国やウクライナの情報当局は、北朝鮮に派兵の動きがあると指摘した。しかし、そうした指摘が事実であっても、北朝鮮とロシアが派兵についてを発表するかどうかは未知数だ。

もしこれを公式的に認め、ロシア軍とともに北朝鮮軍がウクライナと戦闘状態に入れば、それまでの2国間戦争から多国間戦争へとステージも変わってくる。

ロシアに入ったとされる北朝鮮軍が最前線に送り込まれるのかは不透明だ。だが、仮に多国間戦争にまで発展すれば、ヨーロッパや東アジアの安全保障環境にも深刻な影響が押し寄せてくるだろう。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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