心臓移植のため訪米する日本人を待ち構える困難 現地で待機し、脳死患者の心臓を急いで持ってきて…

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ドナー数を増やすために、たとえば「ドナー登録をしている人の脳死判定は必ず行う」という決まりを作る、脳死判定のための複雑な手続きをよりスムーズに代行する役割をたくさん作るなど、いろいろな変更がなされていったり、人々のドナーへの関心や理解が深まっていったりするといいのではないかと思う。そうすれば心臓移植の件数が増え、救える命も増えていくだろう。

ドナーの心臓は、遠くの病院まで取りに行く

ちなみに、心臓移植に使う心臓は、ドナーである脳死患者が入院する遠くの病院まで取りに行く必要がある。そこでドナーから心臓を取り出す手術をして、そのまま自分の病院まで運んでこなければならない。

このとき、車やプライベートジェットを使って取りに行くことが多い。脳死患者のいる病院まで行かなくてはならないのには3つの理由がある。

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まず1つ目は、脳死患者が必ずしも自分の病院にいるわけではないから。脳死の原因で多いのは事故による脳の損傷、あるいは脳梗塞・脳出血であり、それらが発生する場所や時間を予測することはむずかしい。

そのため、移植に使用できる心臓を持った脳死患者が都合よく自分の病院に入院しているというのは、非常に稀なのである。

2つ目は、脳死患者自身を移動させるのは大変だから。脳死患者は通常、人工呼吸器につながれて厳重に管理されている。そのため、病院間を移動するのは安全面でも金銭面でも負担が大きく、むずかしいのだ。

3つ目は、移植する臓器は心臓だけではないから。多くの場合、脳死患者が提供可能な臓器は心臓だけではない。肺や腎臓、肝臓などあらゆる臓器を受け取りに、別々の病院から別々のチームがやってくる。そのため、心臓の都合だけで脳死患者を移動させることはできないのだ。

ドナーとレシピエント(心臓を受け取る人)は別々の病院にいるため、心臓移植の手術が行われる際は、ドナーの心臓を取り出して運んでくるドナーチームと、運ばれてきた心臓をレシピエントに移植するレシピエントチームの2つのチームが動くことになる。

心臓はドナーの体から取り出した瞬間から徐々に“鮮度”が落ちてしまうため、できるだけ早くレシピエントの体に移植したい。これが6時間以上かかってしまうと、心臓の動きが悪くなってしまうなどの不都合が生じるからだ。

この時間を短くするために、それぞれのチームが計画を立てる。連絡を取り合いながら、レシピエントの心臓を取り出して新しい心臓を植え込む準備が完了したときに、ちょうどドナーの心臓が届くよう、手術時間や移動時間を調整するのだ。

また、ドナーがいつ現れるかは誰にも予測ができないため、移植手術はあらかじめ予定されることはなく、すべて緊急で行われる。日中は、手術室がほかの手術で埋まっていることが多いので、移植手術は夜に行われることが多い印象である。

北原 大翔 シカゴ大学心臓外科医・NPO法人チームWADA代表理事

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きたはら ひろと / Hiroto Kitahara

2008年慶應義塾大学医学部卒業。2011年慶應義塾大学外科学(心臓血管)入局。2015年東京大学心臓外科にて研修。2016年旭川医科大学心臓外科にて研修。シカゴ大学心臓外科にて臨床フェロー。2017年、医療関係者の海外留学・就労支援や、海外で働く医師同士の交流の場を提供する「チームWADA」を設立。2019年メドスターワシントンホスピタルセンター心臓外科。2021年より現職。YouTuber本物の外科医としても活動し、動画総再生回数は3億回を超える。

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