もう1人のキングメーカーである菅義偉前首相は、小泉氏のほか、同じ神奈川県連に所属する河野氏も“駒”として保持し、石破氏との関係も悪くはなかった。ただ河野氏の背後には麻生氏が控えていた。菅氏には菅政権の末期、人気回復の切り札として提示した河野氏の登用を麻生氏に拒否された苦い思い出がある。
小泉氏は絶大な人気を誇った小泉純一郎元首相の次男で、2009年に初当選して以来、自民党の若手ホープ。父・純一郎氏は「50歳までは出るな」と総裁選出馬を反対していたが、森喜朗元首相らが説得。消極的に“承諾”を得たとされた。
こうした話題性もあって、当初は他の候補に頭ひとつ分抜きん出ていた小泉氏だが、総裁選が始まるとどんどん失速していった。理由は小泉氏が主張する解雇規制の緩和などの政策で詰めの甘さが露呈したうえ、多数の論客の中ではどうしても力不足が悪目立ちしてしまったからだ。
ある関係者は「自民党員は目が肥えているから、小泉氏は政策能力不足で票が入らないだろう」と述べていたが、その通りに小泉氏は決選に残ることはできなかった。
多くの議員が「次の選挙」を考えて投票
こうして決選投票では、岸田・菅票は石破氏に入る段取りとなった。かたや高市氏には麻生票の他、麻生氏に近い茂木氏も「決選で高市に入れろ」と指令を出したと言われている。しかし、すべての票が“ボス”の思惑通りに動いたとは限らない。多くの議員票は「次の選挙」を考えて投じられたのではないか。
そして今回の総裁選の流れを作ったのは、岸田首相だろう。旧岸田派から林氏と上川氏を出馬させて、総裁選の最中は両者の間でバランスをとり、林氏を突出させなかった。また岸田首相の側近である松山政司参院幹事長を通じて、多くの参議院票を石破氏に入れたと見られる。
臨時国会が10月1日に招集され、石破氏は第102代総理大臣に指名される。ともに戦った8人について「ふさわしい役職をお願いしたい」と、石破氏はノーサイドの姿勢を示すが、党内の力学は大きく変化することは間違いない。「田中角栄の最後の弟子」と言われる石破氏は、いったいどのような政権運営を行うのか――。
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