日本初「全小中学校に作業療法士」、発達や学習の悩みに寄り添う飛騨市の挑戦 診断がなく相談先がない子たちにも支援が届く

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岐阜県最北端に位置する飛騨市。人口約2万2000人の同市が始めた全国初の取り組みが今、注目を集めている。それは市内の公立小中学校すべてに、「作業療法士」が訪問してさまざまな支援を行うというもの。モデル校での試行で成果が見られたため、全校展開に発展したという。この取り組みに関わる飛騨市のキーマンとプレイヤーに話を聞いた。

知られざる「作業療法士」の仕事とは?

国家資格である「作業療法士」について、具体的にどのような仕事を担っている専門職なのかよく知らないという人も多いかもしれない。

奥津光佳(おくつ・みつよし)
作業療法士/りすの実 常務取締役/NPO法人はびりす 正会員
1993年 神奈川生まれ。「クライアントの作業のためなら、どこへでも行き、なんでもしなさい」という恩師の教えの下、現在は岐阜県飛騨市内の小中学校に訪問しながら、新しい作業療法の実践モデルを創り上げ、世界へ発信しようと奮闘中
(写真:奥津氏提供)

「作業療法士(Occupational Therapist:以下、OT)は、精神疾患のある人の地域生活を支援するため、アメリカで生まれた職業です。その後、第二次世界大戦後、戦争での傷病者のリハビリで医療的な役割を担うようになりましたが、そもそもOTの仕事のベースは、生活支援なのです。医療のように障害や疾病の改善に着目するのではなく、その人が意思を持って行う作業や活動の充実を目指し、具体的な手段を考えたりトレーニングや環境調整を行ったりします。そのため、身体だけでなく、心理学や社会学など幅広い知識やスキルを基に対応します」

そう説明するのは、飛騨市で学校作業療法士(以下、学校OT)として支援に当たっているNPO法人はびりすの奥津光佳氏である。

飛騨市はこれまで、乳幼児期から老年期に至るまですべての年代の困り事に対し、医療と福祉のさまざまな専門家が関わって支援する体制の構築に尽力してきた。OTも、そうした中で活躍してきた専門職の1つだ。

年々、発達に特性がある子や学習面での困り事がある子などが増え、学校との連携の必要性が高まったため、都竹淳也市長のリーダーシップの下、2022年度からOTを学校現場で活用することになったという。

モデル校での試行で成果が見られたことから、翌年には市内の全小中学校(小学校6校と中学校3校)に学校OTが月1回~年数回(各校による)訪問する体制に変更。さらに2024年度は、訪問を月2回に増やし、訪問の際は各校に学校作業療法室を設置する形でさまざまな支援を行っている。

主体的に「作戦」を立てて問題解決できるよう促す

では、学校OTは具体的にどのような支援を行っているのだろうか。

「各学校において、学校全体、学年・学級単位、そして個人相談という3段階で関わっています」と、奥津氏は説明する。

例えば、学校全体への関わりとしては、カナダのOTによって生み出された「CO-OP(コアップ)」という課題遂行アプローチを教える取り組みが挙げられる。自分で目標を立て、実現に向けた作戦を考えて実行するというサイクルを回すアプローチで、子どもたちが主体的に自身の課題を解決するスキルを身に付けることが狙いだ。これを奥津氏は「作戦マン」というキャラクターに扮し、「作戦を立てて実行し、目標や目的を実現しよう」と呼びかける形でわかりやすく伝えている。

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