日本初「全小中学校に作業療法士」、発達や学習の悩みに寄り添う飛騨市の挑戦 診断がなく相談先がない子たちにも支援が届く

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作業療法士が学校現場に直接入っていくメリットはほかにもある。例えば、縄跳びや文字をうまく書けないといった不器用さがある発達性協調運動障害(DCD)への対応だ。DCDの悩みを相談できる専門家はまだまだ少ないが、学校OTはDCDの子どもの悩みにも寄り添う。

「実は、CO-OPアプローチは、カナダで年々増加するDCDのお子さんに対応するため、国が作業療法士の団体に依頼して開発されたものなのです。DCDの不器用さはトレーニングで改善するものではありませんので、不器用さを治そうとするのではなく、その後の人生も見据えてどう対応していくかという作戦を立てるのです。例えば、定規を使ってもどうしてもグラフが書けないと相談してきたお子さんには、さまざまな定規を試してもらいました。その結果、その子には厚めの三角定規が押さえやすいとわかり、それを使うとグラフが書けたのです」(奥津氏)

ここで大切なのは、「本人が自分で見つけること」だと奥津氏は述べる。

「誰かに与えられたものではなく、『これが使いやすい』と自分で実感できたからこそ、普段の授業や生活で使えるのです。また、そうした自分なりの道具や手段という作戦を持っていれば、何かうまくいかないときも自分で対処できますよね。DCDはなかなか診断が下りませんし、『不器用だから』で済ませられがちですが、学校にOTがいれば支援できます。DCDに限らず、診断がなく相談先がない子たちに手が届くのも学校OTの意義の1つです」(奥津氏)

保護者との合意形成がしやすくなった

学校OTの活動は、現場にどう受け止められているのか。モデル校として市内で最初に学校OTの支援が始まった飛騨市立古川小学校で、通級指導教室を担当する宮嶋康代氏はこう話す。

宮嶋康代(みやじま・やすよ)
飛騨市立古川小学校 教諭
飛騨市、高山市での小学校勤務を経て、2019年4月より通級指導教室を担当。2023年度には通級指導教室での実践力豊かな教員として飛騨地区のコア・ティーチャーに指名された

「昨年は奥津さんに全校に向けて作戦マンの活動をしていただいたことで、『自分にはできない』と諦めるのではなく『作戦を考えてやってみよう』という考え方に変わった子は増えた気がします。今年度は、集中力を高める瞑想などの授業をしていただくほか、困り事のあるお子さんの個別相談を優先し、主に次年度の就学に向けて奥津さんに見立てや検査、保護者へのフィードバックをしていただいています。保護者の方も悩んでいますから、発達に関わる点も専門家から直接お話ししていただけるのが心強いですね。専門家の見立てがない中で検討していたときは不安もあったのですが、今は就学に関して保護者と合意形成をしやすくなりました」(宮嶋氏)

ほか、昨年度はCO-OPやウィスクの結果の見方、SP感覚プロファイルなどを学ぶ教員研修を奥津氏に対応してもらっていたが、今年度も引き続き実施している。

上口淳(かみぐち・あつし)
飛騨市立古川小学校 校長
民間企業を経験後に、岐阜県小中学校教員となる。飛騨市、羽島郡、高山市の中学校、岐阜県教育委員会教育財務課、飛騨市教育委員会学校教育課勤務を経て、2024年4月より現職
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