気を入れたり少しだけ抜いたり

プロゴルファー/青木 功

 今年も何試合か出させていただいたが、レギュラーツアーはいくつになっても戦闘の場。コースのロープ沿いに応援してくれる知人がいても、会釈の一つもできない“戦モード”となっているのです。
 テレビの解説者として、コースで時々石川遼のプレーぶりを見ていると、彼はいつでも人垣の中、声援やら拍手を背にプレーをしています。小さな子供からの「頑張って」などの掛け声には、近寄って握手でもしたいところでしょうが、ゲームから少しでも心が離れると、人を感動させるスーパーショットは生まれないものなのです。

ゴルフは4時間半の長丁場の競技。気を十分入れたり、少しだけ抜いたり、ゴルフの技術と同様、これがうまくないと好スコアは作れません。
 アマチュアの方を例にすると、午前中は何事もうまくいって好スコア、なのに昼食を境にその腕前は何処へやら、といったラウンドになることがあります。これは、午前中の程よい緊張感のあるゴルフが昼食ですっかりリラックスして、心のリズムが戻らないまま午後のプレーが終わってしまうからです。
 それがシニアツアーになりますと、“戦モード”の緊張感はあるのですが、皆ベテランですから、気を入れたり抜いたりするのはお手のもの。それで和気あいあいの雰囲気が生まれるのです。
 それに、昔から相手の技術や人柄を承知してるから、すばらしいショットを見せてくれると自分のことのように素直に喜んでしまいます。自分も、「青木は昔と違うね」、そんなこと言われたくないから、ワンショット、ワンショットが必死の戦いです。

ドライバーはスイングの途中で少々の狂いが生じても、体の動きが大きい分、多少の修正ができますが、ショートゲームはそうはいきません。パットやアプローチはドライバー以上に、足腰と心が強くないとうまくいきません。
 というのは、パットやアプローチは目的地、カップが目の前にあるわけですから、どうしても早く結果を見たい。誰でもそんな心理になってしまい、ボールを打つ前に体と心がカップに向いてしまうのです。
 ですから、パットとアプローチの名手は、強靭な心と足腰で、その欲望を抑えています。私は1983年のハワイアンオープンで、118ヤードの第3打をピッチングウェッジでカップインし、イーグルで優勝しました。カップに入ったのは偶然かもしれませんが、ショットは完璧でした。
 いつか、その写真をご覧いただきたいのですが、第3打のボールを打った後、ボールが左肩の位置まで飛び出しているのに目は地面を向き、顔を上げていないのです。
 思い出のスーパーショット、今回は自慢話になってしまいました。

プロゴルファー/青木 功(あおき・いさお)
1942年千葉県生まれ。64年にプロテスト合格。以来、世界4大ツアー(日米欧豪)で優勝するなど、通算85勝。国内賞金王5回。2004年日本人男性初の世界ゴルフ殿堂入り。07、08年と2年連続エージシュートを達成。現在も海外シニアツアーに参加。08年紫綬褒章受章。
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