僕がゴルフを始めたのは、『紅い芝生』というゴルフ漫画の連載がスタートした1980年くらいでした。ゴルフボールは今より一回り小さめで、ツーピースボールではなく糸巻きボール。何か飛ばないなあというときは、よく見るとボールが割れていたなんてこともありました。ドライバーは、パーシモン(柿)などのまさしくウッド(木)だった時代です。本間のゴルフクラブを持つのがステータスとされ、特に「ヒロホンマ」。石原裕次郎さんが愛用していたことでも有名でしたが、ちょっと高かったんですよね。
ちょうどその頃からゴルフ漫画が一気に増えて、漫画家のゴルフ人口も増加し、出版各社主催で“コミックコンペ”が行われるようになりました。開催当初は、普段の客とは“異質の団体”だと思われていたでしょうね。ゴルフ場に来るのにベンツ、フェラーリ、ポルシェなんかで20~30代の若いお兄ちゃんが、どんどん乗り着けるわけですから。そして中から出てくるのは、すごく汚い格好をした貧乏そうな若者。ゴルフ場のおばちゃんたちは、「いったいこいつら何者?」と言わんばかりの顔をしていましたね(笑)。
漫画家のゴルフには特徴があります。1日のルーティンは、大体お昼ごろに起きて13時ごろから仕事を始める、そして明け方の4時ごろまで仕事して寝るって人たちが多い。だからゴルフがあるからといって急に前日の22時とかには寝れないので、結局いつもどおりに仕事をして、寝ないでゴルフ場に直行するパターンになります。普段は寝ているはずの午前中というのは、力も入らないし、みんなフラフラになりながら回っている状態です。まるでゾンビが集団で歩いているみたいな(笑)。で、午後になってやっと覚醒してきて元気が出てくるという感じです。ところが、ゴルフというのは不思議なもので、力が入っていないフラフラのときのほうがスコアがいいんですよね。昼食を取ってビールを飲んで、「よし!」と意気込むと、余計なところに力が入ってOBが続出し、残念ながらまたいつもの調子に戻ってしまうんです。
コンペの後の表彰式が済むと、それぞれ賞品を持って車に積んで帰ります。その帰りが眠いのなんのって。寝ずにゴルフを回って自分で運転するのは非常に危険です。僕も気づいたら、目の前に車が迫っていたということが何度かありました。太ももをつねりながら、必死に睡魔と闘ってきましたが、これまで事故につながらなかったのは奇跡かもしれません。でも、だからといって電車やタクシーで向かったら、表彰式でガンガンに飲んで、まずまっすぐは帰らない。結局、銀座や赤坂辺りへ繰り出して、帰宅時間は午前4時。ゴルフも入れて40時間近く起きているということになります。漫画家がゴルフをやると、非常に不健康なものとなってしまうのです。危険でも車で行ったほうがいいのか……。どっちもどっちですね。
山口県出身。早稲田大学法学部卒。松下電器産業(現パナソニック)勤務を経たのち、1974年に漫画家としてデビュー。現在、『島耕作』シリーズ(講談社)、『黄昏流星群』(小学館)を連載するほか、ラジオのパーソナリティとしても活躍中。
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