僕が「ザハ案新国立」建設に大賛成だった理由

建築の経済的価値は「長期スパン」で考えよ

ぼくは大学時代に建築を学んでいたのだが、あるとき建築を学んでいる海外の学生からこんな話を聞いたことがある。

「ぼくは日本人が羨ましい。なぜかといえば、東京という街には新しい建築が次々と建つ。東京に住んでいれば、それを気軽に見ることができる。ヨーロッパではこうはいかない。

例えばローマやアテネは、遺跡がそこかしこにあって気軽に建築物を建てられない。ロンドンやパリは、新しい建築が全くないわけではないが、基本的には古い町並みを壊せない。さらにベルリンやウィーンとなると、数百年前の石造りの建物群が凝固した、文字通り化石の街となっている」

それらに対して、東京という街は「生き物」だという。古い建築はすぐに壊されて、新しい建物がにょきにょき生えてくる。それが、東京という街の個性なのだ。

だから、「新しい建物を建てない」というのは東京という街の魅力を大きく損なうことになるだろう。それゆえ、無理をしてでも新しい建物を建て続けた方がいいのだ。

新しい建物は「どさくさのうちに」建てるもの

ところで、新しい建物、それも巨大建築を作るというのは、実際はなかなか難しい。なぜなら、そこには大きな責任が伴うからだ。それゆえ、誰も建てたがらない。特に日本ではそうだ。これだけの大きなプロジェクトを責任を持って引き受けられる人は、そうそういないのである。

だから、新しい建物はどさくさのうちに建てるしかない。何かの誤作動のような形で作るしかないのだ。そういう力が働かないと、東京の新陳代謝はすぐに止まってしまう。

今、新しい国立競技場のデザイン決定の過程が杜撰だったり、建設責任の所在があやふやだったりするといわれているが、しかしこれは実はその方がいいのである。杜撰だったりあやふやだったりしていないと、とてもではないがこのような巨大な計画は実行に移されないのである。

その意味で、新しい国立競技場は逆に「正しい過程を踏んでいた」ということができるのだ。

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