東芝の不正会計、監査法人の責任は重い 郷原信郎弁護士に聞く

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 7月29日、コンプライアンス問題に詳しい郷原信郎弁護士は、東芝の不正会計問題に関し、監査法人である新日本監査法人が日常的な会計処理を見逃した責任は重いと述べた。写真は21日の会見で謝罪する東芝経営陣(2015年 ロイター/THOMAS PETER)

[東京 29日 ロイター] - コンプライアンス問題に詳しい郷原信郎弁護士は、東芝 <6502.T>の不正会計問題に関し、監査法人である新日本監査法人が日常的な会計処理を見逃した責任は重いと述べた。また、第三者委員会(上田広一委員長)の調査をやり直す必要性も指摘した。

郷原氏は、オリンパス <7733.T>の会計問題の際、外部の人材を集めて設置した監査検証委員会の委員をつとめた。元検察官で、郷原総合コンプライアンス法律事務所の代表。

主なやりとりは以下の通り。

──東芝の第三者委の報告書についてどう思うか。

分かっていた話を報告書の体裁で出してきただけのようだ。例えば、工事の損失引当金は、本来この期で計上されるべきだったのを先送りしたはけしからんなどとあるが、その時点で本当に引当金を積まなければいけなかったのか、最終的な判断をするのは監査法人。監査法人がどのような判断をしたかが一番重要なのに、報告書には十分な批判や責任を追及をするだけの事実がない。

──報告書では、本来なにがあぶり出されるべきだったか。

今回の問題は、すべてが日常的な一般的業務に関する会計処理。つまり監査法人がどのような評価をしたのが一番重要だが、そこが最初から調査の対象外で、そもそも何のための調査報告書なのだろうか。表面的には歴代経営トップに厳しい言葉を浴びせ、辞任で幕引きしようとしている。

──不正会計をおこしたオリンパスとは、何が違うとみるか。

オリンパスは飛ばしにより損失を隠した。プロの手口で行い、監査法人にも誰にもわからなかった。ところが今回は、すべて日常的な一般的な業務に関する会計処理で問題が起きている。これが決定的に違う。

──そういう意味で監査法人に責任はあるか。

この報告書では全然わからない。だが、私はある程度あると思っている。大型工事があるなら、この年度末に工事の進ちょくはどうなっているか、当然関心をもって見て、担当者からきちんと話を聞かないといけないが、そうしているとは思えない。

ウェスチングハウス(G案件)について、約100億円の未修正の虚偽表示を行ったことが出てくるが、これはいったい何なのか。未修正の虚偽表示とは、実際、監査法人の見解でいくと、財務諸表で会社が書いていることとは違うということ。

──その件では、東芝CFOが監査法人から未修正の虚偽表示として処理することを許容すると発言があったと説明しているのに対し、新日本監査法人は否定し、双方の認識が異なる。

(東芝の)久保CFOの発言が本当だとすると、監査法人は食い違いを放置したということだろう。どっちが言っていることが本当か分からないが、監査法人は非常に甘い対応をしたのではないか。さすがに連結売上高が6兆円ある会社でも、100億円を未修整の虚偽表示で済ますことは、本来やってはいけない。

──東芝は8月末までに修正した決算を開示する予定だ。

その予定だが、それでいいのか。常識的に考えて新日本監査法人を東芝の会計監査人として、そのまま置いておくわけにはいかないだろう。このようなことを見破れなかった会計監査人がなぜこの先、東芝の監査ができるだろうか。

──別の監査法人がいちから東芝をみるのも大変な話では。

すべてをいちからみる必要はない。これまでのことをベースに、それに問題がないかをみればいい。後は重要な判断で間違いはなかったかを確認し、繰り延べ税金資産の取り崩しや、のれんの減損処理の規模などを、手あかのついていない監査法人の目でみてもらうべき。

──金融庁や公認会計士協会は、それについて何らかの指示をすることはできるのか。

それは東芝が考えることだろう。ただ、東芝はガバナンスが不在。3社長が辞任し当事者能力もない。少なくともこの問題に責任の持てる体制にしなければならない。

──監査法人としてなにをすべきか。

まずは自分たちでどうなのか検証してみて、どこにどのような問題があったか実質的に検証するのが先だろう。

──東芝には何が求められるか。

まずこれ(第三者委の調査)はやり直しだろう。そして監査法人の部分をしっかり調査し直すこと。監査法人の責任問題は完全にネグレクト(無視)してあるし、不正の認識や根拠もほとんどないので、これだけだと訴訟の資料にもならない。

 

 

(江本恵美、ネイサン・レイン 編集:田巻一彦)

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