調査報道に必須な「騙されてたまるか」の念 桶川ストーカー殺人事件を追った記者の問い
その端緒は、被害者をよく知る友人がもらした “詩織は(ストーカーの)小松と警察に殺された” という一言であった。しかし、最初になされてしまった公表報道に基づいたワイドショー的な取り上げ方というのは恐ろしい。
後に、このような良心的な調査報道がなされ、誤った情報であったことがわかっても、多くの人には届かない。
今も世に放たれたままの犯人がいる
清水が「北関東連続幼女誘拐殺人事件」と名付ける一連の事件について書かれたのが『殺人犯はそこにいる』だ。そんな事件は聞いたことがないという人でも、えん罪となった足利事件はご存じだろう。足利事件の真犯人は不明のままである。それだけではない、栃木と群馬をまたぎ、足利事件を含む5つの幼女誘拐殺人事件が起きているのだ。その類似した手口や最新のDNA鑑定から、「ルパン」と名付けた男の犯行であると同定する。しかし、ルパンは今も野に放たれたままだ。それ自体が大きな問題であるが、さらに、おそらく、その背後には、とてつもなく大きな司法の闇が潜んでいる。
『桶川ストーカー殺人事件』や『殺人犯はそこにいる』を未読の人にとっては、本書『騙されてたまるか』(新潮新書)に一章ずつがさかれて紹介されているので、この2つだけでかなりの衝撃をうけるだろう。それだけでも、本書の価値は十分だ。もちろん、それぞれのオリジナル本の方がはるかにインパクトが大きいことは言うまでもない。
ほかにも、実際には被害を受けていなかったのに受けたと思い込んだ “被害者” の訴えを鵜呑みにしたために、無実の人が “加害者” として報道されてしまった「群馬パソコンデータ消失事件」。時効後に3億円事件の犯人と名乗り出たウソつき男にふりまわされる「“三億円事件犯” 取材」。家出で事件性がないと判断されていた行方不明が殺人事件であったことを突き止めていく『北海道図書館職員殺人事件』。どれもが、「おかしい」と引っ掛かったことをきっかけに調査を始め、いろいろなことが明らかにされていった。
ニセ3億円事件犯以外は、ほんとうに気の毒な出来事だ。が、清水氏に「おかしい」と思ってもらえただけまだマシなのかもしれない。発表報道の中には、もしかすると、おかしなものが山ほどあるのに、ほったらかしにされてしまっているのではなかろうかという気がしてきてしまう。
調査報道のお手柄話を知らしめるための本ではない。その限界や危うさについても、客観的な意見が述べられている。しかし、この本を読むと、限界や危うさがあったとしても、まともな調査報道があまりに少ないことの方が問題であることがわかってくる。
“自分の目で見る。
自分の耳で聞く。
自分の頭で考えるーー。”
この3つをもとに、“自らの判断で「何が本当で、何が嘘なのか」を判断する”ことが重要であると説く。どこまでできるかはわからないが、清水氏が書くように、これは、調査報道だけでなく、われわれが自らを守って生きていく上において何よりも重要であることだ。
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