絶頂のTSMCでも競争力維持で直面する3つの課題 企業文化、グローバル化、人材など課題はある

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:TSMC創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏は「20~30年後も台湾が今のような競争力を維持できるとは限らない」と指摘しています。インドや東南アジアなど各国で製造業が勃興しており、かつての台湾人従業員のように残業をいとわない人たちも大勢います。

30~40年前にアメリカの労働者がやりたくないことを台湾は引き受けて競争力をつけてきたように、今の台湾の労働者がやりたくないことを新興国の人たちが引き受ければ台湾の仕事は外に奪われるでしょう。

全体を見渡せるエンジニアの育成がカギに

情ポヨ:人材で私がもう一つ懸念しているのは、工場全体、ライン全体を見渡せる技術者がTSMCで少なくなっていることです。

私がお付き合いするTSMCのエンジニアでも、ディレクター以上の人たちは林さんが指摘したように仕事への価値観がハードワークな面があります。

一方で、それより下の人たちは技術流出防止などセキュリティの観点もあり、アクセスできる情報を大きく制限するなど仕事を細分化して、1人当たりの裁量がかなり小さくなっています。全体を見渡せるエンジニアがいなくなってしまうと、TSMCの競争力に影響しかねません。

林宏文と情ポヨ
長年TSMCを見続けてきた2人の対談は盛り上がり、予定時間を延長したかったが、情ポヨ氏は仕事で台湾へ向かう必要があり、対談後はタクシーに乗り急ぎ空港へ向かった(撮影:尾形文繁)

:同様のことを心配しています。現在、TSMCは約7万人の従業員がいます。しかし、この数年は事業が急拡大したこともあり、毎年8000人ほどを新規に雇用しています。つまり2万人ほどは新しく入ってきた人たちなのです。仕事が細分化されており、全体を見られる人の割合が減って、事業の成長や競争力の維持に影響する現象は起きるでしょう。

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とはいえ、問題に対処するスピード感はやはりすごいので、解決することも十分に可能でしょう。

かつてもTSMCがワシントン州にある工場を立ち上げる際に、TSMCはある幹部を支援に送ることを決めました。この幹部は台湾にある家財をとくに整理せず、秘書に「自分の誕生日プレゼント代に充てていいから」と丸投げして決定からわずか1カ月でアメリカに行ってしまいました。

アメリカのIT大手企業の人も「その幹部クラスなら通常調整から決定、実際の異動まで半年から1年かけてやるだろう」と驚いていました。この台湾の柔軟性の高さやスピード感は本当に大事です。きっと現在建設が進んでいるアメリカ工場でも同様のスピード感をもって対応しているはずです。

台湾でエレクトロニクス産業が成功した要因について、ある人は「(植民地の宗主国だった)日本の規律正しさ、(多くの学生が留学した)アメリカのクリエイティビティ、(ルーツのある)中国人の勤勉さを台湾人が兼ね備えていたから」と指摘していました。これに私は台湾人の臨機応変さを加えたいと思っています。

台湾人は良品率を100%まで高めないという話がありましたが、ある意味、人としてもそれぞれの国の性質を95%ずつ重ね持っていて、それが強みとなっているのかもしれません。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。1994年台湾台北市生まれ、客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説を研究している。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、映画・アニメが好き。

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