林:完璧を求めるためにものすごく時間をかけたとして、結局いくらの利益を得られるのかと利益を最大化できる条件と比較して事業運営しているわけです。利益を得ることはとても重要で、利益がなければ企業は持続発展できず、研究開発も進められず、結局顧客にサービスを提供できず迷惑をかけてしまいます。
日本と台湾でも企業文化や仕事への考え方、価値観が違って衝突が起きているように、TSMCはアリゾナ工場が思ったように建設が進まないアメリカでの状況により大きな衝撃を受けているはずです。
アメリカ進出は自信へのしっぺ返し
TSMCはこれまでも中国の南京や上海に工場を置いたほか、アメリカのワシントン州にも小規模工場があります。ただ、ほとんど台湾だけでやってきた企業なのです。台湾ではTSMCのために世界各国の企業もやってきてサプライチェーンが構築され、TSMCが何かを言えばみんないうことを聞くような環境になっていました。
台湾でのやり方に自信をもって、その企業文化や技術をそのままアメリカに移転しようとしてしっぺ返しを受けているのです。劉徳音氏がTSMCの会長を退任するのはこの責任をとったからだと私はみています。TSMCも反省が必要なのです。
情ポヨ:TSMCの今後の課題や問題は何だと思いますか。
林:グローバル化がTSMCにとって大きな試練となるでしょう。日本、アメリカ、ドイツでそれぞれ特有の問題が発生し、また各地でチャンスも異なってきます。それに対応できるかが焦点です。
日本は製造装置や材料など半導体製造を支える周辺産業が強い国です。TSMCはこれらの企業とより協力したいと思っており、熊本工場だけでなく大阪と横浜に研究開発センターを置いているほか、つくば市にもパッケージングの研究センターを開設しました。生産拠点をただ増やすだけでなく、現地と協力してより新しい製品や事業を生み出したいのです。
また人材確保も課題になります。世界各地の人材がTSMCに参加することによる衝突だけでなく、台湾社会でも問題が起きています。
今、台湾の労働市場では「人がすべてTSMCに奪われている」との恨み節が広がっています。そして、先ほど述べたように若者の労働文化も変わっており、その変化はTSMCといえども止められません。
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