人気列車がなぜ?欧州「消えた有名特急」の面々 名称消滅「タリス」や会社自体が姿消した列車

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チザルピーノのETR470型は、自動車を筆頭に数々の名デザインを生み出した工業デザイナーのジゥジアーロがデザインを手がけ、白い車体に青と緑のストライプという斬新さで非常に人気が高かった。スイスとの合弁企業の車両でありながら、雑誌やガイドブックでイタリアの鉄道を紹介するとき、ほかのイタリアの車両を差し置いて、このETR470型が「イタリアを代表する特急車両」のような形で紹介されたこともあったほどだ。

Milano C.le ETR470 CIS
ミラノ中央駅に停車中のETR470型「チザルピーノ」(撮影:橋爪智之)
ETR470 Giugiaro
ETR470型は有名工業デザイナーのジゥジアーロがデザインした(撮影:橋爪智之)

利用客数も多く、のちに列車の増発が必要となったが、新型車両の投入が遅れたため一時期はチザルピーノの色とロゴだけを入れた一般の客車を運行していたこともあった。その後、メーカーからの納入は大幅に遅れたものの、2009年7月には待望の新型車両であるETR610型が営業を開始した。

人気者だったチザルピーノだが、イタリア国内で発生する列車の遅延、さらにはETR470型そのものの信頼性の問題などが重なり、スイス連邦鉄道側が提携の解消を求める事態となってしまった。結局、2009年12月のダイヤ改正をもってチザルピーノは運行を取りやめ、設立16年目にして会社は解散した。

新型車両のETR610型は、営業開始後わずか5カ月でチザルピーノとしての営業運転を終えることになってしまった。保有していたETR470型9両編成9本と、ETR610型7両編成14本は、半分ずつスイス・イタリアの両国へ分配され、引き続き両国間を結ぶ特急列車として運行を続けた。ダイヤ改正以降は、それぞれの国が単独での乗り入れを行う形に落ち着き、以降は大きなトラブルが発生することもなく、現在は両国の列車が連結されて運転されることもある。

ETR610 チザルピーノ
わずか5カ月だけ運行されたETR610型「チザルピーノ」(撮影:橋爪智之)
SBB Trenitalia ETR610
一度はたもとを分かったスイスとイタリアだが、現在は連結して運転することもある。スイス(左)とイタリアのETR610型(撮影:橋爪智之)

人気列車「消滅」今後もありうる?

前述のユーロスターに吸収されたタリスやチザルピーノなど、会社そのものが買収もしくは解散などによって消滅してしまうケースは、日本とは異なる上下分離方式を採用し、運行だけを担う民間企業が多く存在するヨーロッパならではの事情と言える。

事実、近年成長著しく知名度も上がった、イタリアの高速列車イタロを運営するNTV社は、最近になって海運大手MSC社が株式50%を取得しており、状況によっては会社組織のみならず、今後ブランドそのものががらりと変わる可能性も否定はできない。この先も、こうした突然の吸収合併や、解散による会社そのものの消滅ということがいつ起こっても不思議ではないだろう。

チザルピーノが消滅してから約15年、この列車を知らない人がいるのは不思議ではない。最近生まれた子供たちが物心つく頃には、タリスという列車も人々の記憶から忘れ去られた存在となっているかもしれない。

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橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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