「孫の収入増で生活保護打ち切り」妥当でない根拠 働きながら正看護師を目指す若者を襲った悲劇
――結果的に、また生活保護を受けられるようになったとはいえ、今回のような行政の廃止判断が裁判所で認められてしまうと、自治体によっては子どもがいつまでも自立できない恐れがありますね
今回の高裁の判決は、孫の収入と祖父母の収入を合わせると最低生活費を上回るので、「孫の就学・資格取得により、自立を一応達成することができた」として、世帯分離を解除して、保護を廃止した処分を認めています。
しかし、「一応」の自立で十分とすることは、大学や専門学校へ進学する者を世帯分離する趣旨が「世帯の将来的な自立」のためであることと整合しません。
正看護師は准看護師に比べると賃金が高く、孫の将来的な自立を考えた場合にはそれを支援するのが生活保護法の趣旨にも合致するはずです。
その点で、この世帯に生活保護をおこなっていた熊本県としては、世帯分離を解除して保護を廃止する方向ではなく、世帯分離を継続して修学を支援する方向に裁量権を行使すべきでした。
子どもの目標、支える支援のあり方を
――原告は上告する方針とのことです。最高裁ではどのような審理が期待されますか?
今回の判決は「孫が看護師の資格取得を目指していたという主観的な事情は、自立の目的達成に関する判断を左右しない」と、孫の正看護師になろうとする希望を切り捨てています。
子ども・若者が高い目的を持ち、それを達成しようとすること自体が持っている価値をあまりにも軽く見過ぎていて、この判示には強い憤りを覚えました。
社会を見れば、子どもの貧困に取り組む視点から、修学支援新制度も導入され、給付型奨学金や学費の減免も拡充されています。
生活保護制度を見ても、先に述べたように住宅扶助の関係では世帯分離されていても保護費を減額しない扱いになりましたし、大学や専門学校への進学時に転居する場合は30万円、転居しない場合は10万円を支給する「進学準備給付金」の制度も始まりました。
大学や専門学校への進学率は70%を超えています。私はそもそも大学や専門学校への進学者を世帯分離する扱いを止めるべきだと考えていますが、そのような扱いを続けるとしても、修学を支援する方向で制度が運営されなければならないと考えます。
高裁判決の結論は、このような方向性に大きく反するものです。最高裁での判断には引き続き注目していきたいと思います。
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