難しい哲学が一転しておもしろく感じるプロセス 哲学YouTuberがひもとく、哲学の秘話

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『哲学者列伝』の著者ディオゲネス・ラエルティオスという人物が何者かはわかっていません。この本には、古代の哲学者たちの生涯と興味深い逸話が数多く収録されています。加えて、学説の要点も記されており、特にヘレニズム哲学のストア派・エピクロス・懐疑主義の教えについての記述は非常に充実しています。

生涯や逸話は、真偽が怪しいものが多く、特に逸話についてはほとんどが作り話です。それでもまったくの荒唐無稽とはいえません。その哲学者らしさが表れていて、何らかの説得力があるのがポイントです。

たとえば逸話で有名な哲学者に、シノペのディオゲネスがいます。ディオゲネスは特別な学説を残すことなく、さまざまな言動によって哲学を実践しました。まさに、生き方そのものが哲学といえる人物です。

ディオゲネスは大きな甕(かめ)の中に住み、貨幣を偽造したり、公共の広場で自慰にふけったり、プラトンの学園にもぐり込んで講義を揶揄したり、昼間にランプを灯して人探しをしたりと、奇怪な言動をした哲学者です。彼の逸話の多くは、この『哲学者列伝』に書かれています。

『哲学者列伝』のほかには、アリストテレス『形而上学』第1巻が、史上初の哲学史と見なされています。万物の原理は何であるか、過去の知者たちの意見を整理するという名目で、タレスやピュタゴラス、プラトンの学説をまとめています。

哲学史を独立した1つの著作のように書き記したのは、テオプラストスです。彼はアリストテレスの年下の学友でした。彼は『自然学者たちの学説』という著作で、学説を収集・整理し、一体系にまとめ上げました。

このテオプラストスの著作を原型に、後世でもいくつかの学説資料集が作られ、その一部が保存されたことで、現代の私たちが古代哲学の内容を知ることができるのです。

古代・中世の哲学書を保存してきた名もなき人々

中世の時代には、今でいう哲学史のような本はほとんど作られませんでした。古代では、ディオゲネス・ラエルティオスの作品があり、これが貴重な史料でした。哲学者たちの生涯や思想について、さまざまな逸話も含めて、収集し報告する形でした。

一方で中世では、過去の哲学者たちの考えに「註解(注釈)」をつけることによって、哲学のテクストが保存されました。たとえば、イブン・ルシュドの作品は、すべてアリストテレスの著作に注釈をつけたものでした。著作の題名も『アリストテレスの「魂について」の大註解』などという名前です。これらは大学・スコラ哲学の流れです。

これに対して、修道院では古くから「命題集」という形式で哲学者たちの作品を保存しました。代表的なものがペトルス・ロンバルドゥスという神学者の『命題集』です。これは、信仰上の疑問に対する教父たちの考えを、彼らの著作から収集したものです。たとえば冒頭は「三位一体説」がテーマで、三位一体説を理解する助けになる記述をアウグスティヌスの作品から整理しながら集めています。

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