AIとアルゴリズムでは及ばない"投資"で勝つ秘訣 投資に関してAIは人間の認知能力に追いついてない

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後藤:アルゴリズムやAIとは真逆の原始的な世界ですね。

宇根:そうですね、おっしゃる通りです。言い換えれば、人間の認知能力は素晴らしくて、まだまだAIは追いついてないですね。この間、AIに「債券は今買いですか?」と聞いてみたら「債券はリスクがありますので……」と、教科書のようなことしか返ってきませんでした。

それに対して、株でも投資をしようかなと思う時に、会社説明会に行った時の経営者の顔色や声のトーン、出席してる人たちの人数や顔色までは現段階ではAIで読み取ることはできません。現場に行った人間の情報処理能力とそこから感じる熱量みたいなものから生まれてくる投資アイデアはまだまだ差別化要因になると考えています。

ただ、一人の人間が1000社以上の会社すべてを見ていくことはできないじゃないですか。ファンドのパフォーマンスを安定的かつ好成績にするためには、多数の投資アイデアに分散投資したいと考えており、足で稼ぐなどして情報収集し、投資アイデアをひねり出せる人間を何人か配置して、アイデア数を増やしていくことが重要かなと思います。一人であってもある程度稼げる可能性はあるんですけど、投資のアイデアが限られてしまって失敗する可能性もあります。

人間の強みを引き出し、弱みをカバーする

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たとえば、一人でやると、投資アイデア数が多くは出せないので一つ一つの投資のアイデアの成功・失敗によってポートフォリオ全体のPL(損益)がブレるんですよね。何人かでやると、投資アイデア数が増やせるのでブレが相殺されて、PLが安定化するんですよ。

そうすると人間の能力の良さを引き出しながら、人間の弱みである情報処理能力の機械対比の低さを補うことができるので、機械に勝てる可能性が高まる、と考えています。

後藤:あえて人間的な取引の仕方を重要視されているんですね。定量的な、機械的な投資戦略を採用なさると考えていました。

宇根:かつてそういった(定量的な)手法をやろうと思ってもうまくいかずに挫折したんですよね。ましてや今はインベストメントLabという小さな組織を作って少ない資本で設備投資がそれほどできない中で、どうやって機械(大規模な設備投資をして計算環境を整えた定量的手法を用いる大手ファンドなど)に勝つか。我々の組織に揃ってくれた人材にやる気があるのであれば、人の認知能力を応用する手法が一番いいのかなと。

後藤 達也 ジャーナリスト

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ごとう たつや / Tatsuya Goto

2022年からフリージャーナリストとして、SNSやテレビなどで「わかりやすく、おもしろく、偏りなく」経済情報を発信。2004年から18年間、日本経済新聞の記者として、金融市場、金融政策、財務省、企業財務などの取材を担当し、2022年3月に退職。2016~17年にコロンビア大学ビジネススクール客員研究員。2019~21年にニューヨーク特派員。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、国際公認投資アナリスト(CIIA)。

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宇根 尚秀 インベストメントLab株式会社代表取締役

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うね なおひで / Naohide Une

インベストメントLab株式会社代表取締役。2000年、東京大学工学系研究科化学システム工学専攻修士課程修了。ゴールドマン・サックス証券に入社、2009年マネージングディレクター就任。2015年、ゆうちょ銀行市場部門執行役員、その後常務執行役員に。現在は自らが起業した投資運用業者インベストメントLab株式会社代表取締役。

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