アメリカ兵の「究極の抗議」が大統領選を左右する バイデン政権に突きつけられた「イスラエル」という問題

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民主化を求める波はチュニジアからエジプト、リビア、シリア、イエメンなどへと伝播した。その結果、強権的な政権が倒れた国もあれば憲法改正でどうにか体制を保った国もあり、一方ではシリアのように独裁政権が武力で人々を抑え込んだ国もある。結果は一様ではなかったが、アラブ全体に広がった大変革の発端は、1人の若者の焼身自殺だったのだ。

では、今回のアーロン・ブッシュネルによる究極の抗議も、歴史を変えることにつながるのであろうか。イスラエルのネタニヤフ首相は気にも留めていない。だが、バイデン大統領はそうはいかない。

2024年11月の大統領選挙で再びトランプ氏と対峙するバイデン大統領には少なからぬ逆風が吹いているが、その1つがイスラエル支持に対する批判だ。

予備選での異常事態

とりわけ、民主党は若者の間で支持が高いことが共和党に対する強みなのに、その若い世代でこそパレスチナとの連帯・イスラエルへの憤りが、強い。各種世論調査でやや後塵を拝しているバイデン氏にとって、若者票を取りこぼすようでは、逆転が遠のく。

そうした心配はすでに現実のものとなりつつある。2024年2月末にミシガン州で行われた民主党の予備選で投票者数の約13%、10万人以上が白票にあたる「該当候補なし(uncommitted)」を選択した。アラブ系の団体がバイデン氏への抗議の意思を示すために白票を呼びかけたもので、団体が目指した票数をはるかに上回った。

ミシガン州は全米で最もアラブ系有権者の割合が高いという土地柄であることを考慮しても、バイデン政権のイスラエル支持に対する反発が人種・宗教の違いを超えて若者全般に広がっていることを見せつけた。

2024年3月半ば、アメリカ議会上院の民主党トップであるシューマー院内総務は演説で「和平への4つの障害」としてハマスなどと並んでネタニヤフ首相を挙げ、退陣が必要だと訴えた。他国の元首の交代を求めたのは異例で、シューマー氏がユダヤ系であることも含めて、大きな波紋を呼んでいる。

民主党の重鎮がそこまで踏み込んだ演説をしたのは、秋までズルズルとイスラエルの苛烈な攻撃が続くようでは大統領選でバイデン氏に勝機はないという危機感もあったのであろう。

かといって、バイデン政権が一気にパレスチナ寄りの姿勢をとってネタニヤフ首相に退陣を迫ろうとすれば、親イスラエル傾向が根強い中高年の票、そしてもちろんユダヤ系の票を失うリスクが大きい。袋小路といえる。

政権が直接に、ではなく、議会大物の演説がきっかけとなって停戦、そしてネタニヤフ首相退陣となればベスト……。そうした計算も見え隠れする。

アメリカの作家マーク・トウェインは「歴史は、それ自体は繰り返さないが、しばしば韻を踏む」という言葉を残している。

2024年、首都でのアメリカ兵焼身自殺が、かつてベトナムや中東で起きた地殻変動の「韻を踏む」かのごとくアメリカ政治に影響を及ぼすのか。連日ガザで起きている人道危機とともに、関心を払いたい。

池畑 修平 ジャーナリスト、一般財団法人アジア・ユーラシア総合研究所理事

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いけはた しゅうへい / Shuhei Ikehata

1969年大阪府生まれ。1992年に東京外国語大学を卒業後、NHK入局。高松放送局、ジュネーブ支局長、中国総局(北京)、ソウル支局長、BS1「国際報道」キャスター、解説主幹などを務めた。著書に『韓国 内なる分断―葛藤する政治、疲弊する国民』がある。

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