子供には生々しい?我が子に「お金の話」NGなのか 新しい概念だからこそ、しっかりと学ぶ必要

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いかがでしたか? このシーンでも説明されていたとおり、お金は人類にとって新しい概念だからこそ、きちんと学ばないと上手に使えるようにならないのです。

当たり前ですが、お金というものは自然界には存在しません。貨幣の起源は諸説ありますが、生まれてせいぜい数千年しか経っていません。生き物としてのヒトの歴史に比べれば、ほんの最近のことです。

経済や金融、投資の世界では、金利や確率、需要と供給などさまざまな均衡(バランス)といった概念が重要な役割を果たしていますが、そうした考え方の一部は、生き物としてのヒトの本能や直観とは縁遠く、時にそれに反することもあります。

典型的な例が、「投資のリスク」です。投資で成果を上げるためには、それなりのリスクを取る、つまり「損するかもしれない可能性」を考慮しなければなりません。しかし、人間は本能的に損失を嫌います。

人間は本能的に「損失」を嫌う

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50%の確率で2万円儲かり、50%の確率で1万円損する。金融広報中央委員会の金融リテラシー調査によると、こうしたケースであっても、4分の3の人は「投資しない」と答えています。ちなみに「投資しない」は男性6割強、女性8割強と、大きな男女差があります。興味深いですね。

損失は同じ金額の利益より2倍も「痛い」という研究もあるほど、人間は損失を嫌うのです。これは生き物としては「とりあえず逃げる」が最適な戦略だった名残だろうと、私は考えています。

お金なら目減りするだけで済むけれども、野生動物が怪我をすれば生存確率は大きく下がる。かなりの確率でエサが手に入るとしても、物音がしたらすぐに逃げるほうが正しい選択だったはずです。

そんな本能を理性で抑えて、現代人は金融や投資において、賢明な判断をしなければならない。しかも、国際比較の各種調査を見ると、日本人の金融リテラシーは欧米諸国と比べてかなり低いのが現状です。「貯蓄から投資」の流れを考えても、公教育も含めて、底上げは急務です。

もっとも私は「金融後進国ニッポン」の未来について楽観的です。金融は苦手ですが、数学や科学のリテラシーでは日本は世界トップクラスです。数字を扱い、合理的に思考する土台はあるのです。「慣れ」と苦手意識の克服が進めば、日本人のお金との付き合い方はぐっとレベルアップするだろうと確信しています。

高井 宏章 経済コラムニスト

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たかい ひろあき / hiroaki takai

1972年生まれ、名古屋出身。1995年、日経新聞入社。マーケット、資産運用などを長く担当。2016年からロンドンに2年駐在し、2020年から退職まで編集委員を務めた。日経在籍時は電子版やYouTubeの「教えて高井さん」の動画解説で親しまれ、キャスターとして「日経ニュースプラス9」にも出演。「高井浩章」名義で出版した『おカネの教室』は10万部超のロングセラーに。Twitter、noteで経済にとどまらず、書評や教育論など幅広い情報を発信している。

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