世界株高から置き去り「沈む中国株」の根本要因 権力集中が招いた苦境、トランプ勝利でどうなる?

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ではこれらの前提条件をもとに、「中国株を買っていいのか?」と聞かれた場合、筆者は短期的な反発地合いを狙うならOKだが、中長期的には他の対象の方がよいという立場だ。習近平氏退任までは成長よりも政治に重きを置くので、大きな経済成長が期待できないからである。

さらに踏み込むと、そもそも中国の株式の価値は、アメリカの株式の価値より低い。仮に似た条件の中国株とアメリカ株があるならば、アメリカ株の方がよい。中国においては株主よりも共産党の意向が優先されるからである。

アリババ・グループやその傘下のアント・グループの創業者であるジャック・マー氏への弾圧、アント・グループの上場延期がよい例で、事前に購入の意向を示していた株主の権利は保護されなかった。会社の上場手続きは延期されてしまったうえに、親会社のアリババ・グループには課徴金が請求されたのだから起業家精神や企業の成長意欲は育たない。

次に「中国に事業投資をしていいか?」と聞かれれば「産業による」と答えざるをえない。日本の乳児用具などは大人気であるし、それを中国で製造・販売する場合においては経済安全保障上も大した問題にならないだろう。一方で外資系の半導体や専門的なリサーチ、コンサルティング業などは、現在の中国の反スパイ法の下では、ビジネスを存続させることが難しいだろう。

中国の経済指標は信用できるか?

ここまで中国経済と株価について展望してきたが、前提として中国経済指標をどこまで信頼するか?という問題がある。これについて筆者は、中国の経済指標は日本よりは正確性を欠くが、新興国の中では割としっかりしており、少なくともロシアより経済指標の正確性があるという認識だ。

これは業務として様々な国の金融経済調査を行ってきた筆者の経験則によるものだ。中国経済を読み解くには、複数の経済指標を組み合わせながら、かつ現地の声を聞き、それを自由民主的な価値観ではなく、一党独裁の共産党体制であることを考慮して角度を変えて見る必要がある。

戸田 裕大 トレジャリー・パートナーズ代表

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とだ ゆうだい / Yudai Toda

外国為替の専門家。2020年に中国より帰国後、日本のFX個人投資家に向けた情報提供に力を入れている。2018年まで10年間SMBCの為替ディーラーを務める傍ら、日系企業750社の為替リスク管理を支援。そのうち3年間は上海を拠点に人民元の調査に従事した。中央大学法学部卒、中欧国際工商学院(CEIBS)経営学修士。

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