LRTか、それともバスか?中国製「ART」とは何者か レールなし、路面の白線マーカーに沿い走行

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2018年に同プロジェクトは中国によるLRT方式での整備を前提に構想されたが、高額なコストを理由に実現には至らず、翌2019年にART方式での建設が決定した。KUTSの運営主体となるサラワクメトロは、LRT方式に比べ、3分の1のコストで整備が可能であると発表している。

クチンART路線計画図

KUTSはスマートシティ構想の一環であるとしており、ART停留所からはフィーダー交通として自動運転バスも導入し、全ての人がARTにアクセスできるようにするという。しかも、このARTは、他都市で導入されているタイプとは異なり、水素を動力源とする全く新しい車両になっている。東南アジア初のサステナブルシティを目指す構えだが、都市開発全体を中国が売り込んでいるという背景もある。

サラワク州はKUTSプロジェクトを総額60億リンギット(約1884億円)と見積もり、ナジブ首相の提唱で設立されたサラワク開発銀行を経由し融資され、公共事業として実施される。計70kmにも及ぶフェーズ1区間のうち、クチン市中心部と隣接するサマラハン市を結ぶブルーライン(27.6km)と、クチン市中心部と空港方面を結ぶレッドライン(12.3km)の路線、車両基地建設や車両、信号システムなどの調達について、2023年末までに業者選定を済ませ着工している。

サラワク州クチン
マレーシア・サラワク州の州都クチンの街並み(写真:えびちゃん@マスヲフライヤー)

技術はユニークだが法的課題も

いずれもマレーシア企業と中国企業のJVが落札しており、車両は当然、CRRC株洲が納入することになるが、書類上はマレーシアの民間投資会社ECCAZとCRRC子会社の合弁会社Mobilusが受注している。このパッケージには水素式ART車両38編成、信号システム一式、ホームドア、車両基地設計などが含まれており、契約額は14億2500万リンギット(約447億6200万円)だ。

水素式ART紹介パネル
水素式ART車両を紹介するMobilus社のパネル(写真:Ernest Wong)

ART自体がCRRCとMobilusの共同開発であるとも説明されており、公式ページにはMobilusは今後、マレーシアのみならず、近隣諸国への営業を強化すると記載されている。KUTSのARTは、高速道路や高規格道路の一部を専用レーンとして自律走行し、交通量の多い交差点は立体交差、一部区間には高架駅も設けられる。道路信号に従って進む区間では、ART優先信号が導入される。

車両は1編成がプロトタイプとして2023年8月に到着、試運転が続けられており、2025年末までに先行区間の開業を目指している。クチンが中国国外で初のART営業区間となる可能性が高い。政治的意図はあるとは言え、ART技術は注目に値するだろう。

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