上場しても「大金持ち」になれない創業社長の悲哀 上場によって売却できる保有株は多くない

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冒頭でイグジットの種類と意義について述べましたが、これらは投資家目線で見たときの話。社長目線で見ると、少し話が変わります。

まず、IPOは社長にとって「出口」ではありません。上場した後も当然ながら経営は続いていきますから、あくまで「新しいスタート」です。上場した瞬間、すべてを投げ出して辞める、ということは基本的にはできません。

上場すると週刊誌に狙われる?

厳密に言うと、上場後に保有している株式を売ることができますが、売れる株は少しだけです。株をたくさん売ると持ち株比率が変わるため、株式市場から「この社長にとって上場がゴールで、経営する気がないな」と判断され、株価(企業価値)が下がってしまうのです。

そもそも、上場前にベンチャーキャピタルなどから出資を受けているはずで、社長の持ち株比率は高くないケースもあります。よく「上場したらめちゃ金持ちでしょ」と言う人がいますが、必ずしもそうでもなかったりします。

むしろ、上場すると注目度が上がるので、社長が週刊誌に狙われることもあります。皆、誰も知らない会社の社長の飲み会には興味がありませんが、有名な会社の社長がちょっとお行儀の悪いことをすると猛烈に叩かれるものです。

一方、M&Aはどうかというと、これは社長にとって出口になりうるケースがあります。会社や事業を手放すのと引き換えに、社長はリターンを得られるからです。

ただし多くの場合、自分の会社や事業をどこかの会社に売却するタイミングで経営から手を引けず、「2年間は引き続き経営に専念してください(=ロックアップ)」といった条項が付きます。ロックアップの期間が終わったら晴れて自由の身となりますが、それまでは本当の意味でのイグジットとは言えないのです。

上場を選択するということは、永遠に成長し続ける道を選択したということです。

ベンチャーキャピタルから投資を受けた時点でそこまで明確にイメージしている社長は少ないですが、事業責任や資本市場への説明責任、組織への責任は重くのしかかるようになります。会社の統治の仕組みを整えるのはもちろん、監査役や社外取締役などさまざまな人の目が注がれることになるのも、大きなプレッシャーです。

すると、自分がビジョンやミッションを大事にして会社を立ち上げたにもかかわらず、事業の成長や、守らなければならないこと、コンプライアンスなどに縛られるようになるので、「自分が立ち上げた会社なのにもう自分のものではない」という感覚に陥ります。人格が分離したような感覚がありながらも、これまで以上の責任があるという立場になるのです。

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