総務省初の"出戻り官僚"が誕生、霞が関の危機感 キャリアの退職相次ぎ、人事改革に試行錯誤
平松室長は22年間勤めた総務省を、2022年6月末に退職。職場結婚した夫が民間企業に転職して家庭環境が変わったことや、当時担当した仕事に自信を持てなくなったのがきっかけだった。
その後オムロン事業子会社へと移り、経営戦略や新規事業立ち上げに携わったが、再び国のために働きたい思いが強くなり、総務省の経験者採用に応募し合格。総務省を去ってから1年3カ月で復帰することとなった。平松室長は「民間でのマネジメント経験を国の仕事に役立てたい」と語る。
年功序列の色合いが濃い霞が関では、年次にとらわれない人事自体が依然として少ない。出戻り者の採用は、総務省にとってもチャレンジングな試みだったといえる。
人事を担当する総務省秘書課の柴山佳徳官房参事官は、管理職の経験者向けの選考採用試験を実施した理由について、「今までの硬い年功序列から社会が流動化する中で、役人が追いついていない部分をキャッチアップし、人事改革を進めないといけないと考えた。人事の平等性を考えながらも、組織力アップに向けて試行錯誤しなければいけない時代になっている」と説明する。
IT・コンサルへの転職も目立つ総務省
人材流動化の波は、総務省にとってもひとごとではない。とりわけ通信や放送を所管する旧郵政省系の官僚は、アメリカのビッグテックなどをはじめとするIT業界や、コンサル業界への転職が目立つとされる。
2021年には総務省幹部の接待問題が国会で取り上げられ、30人超の職員が処分された。組織が大混乱に陥る中で、「直後に多くの職員が一気に離職」(総務省関係者)する動きもあった。
組織からすれば、キャリア官僚が中堅を前に退職することがとくに痛手となる。人事院の担当者は次のように打ち明ける。
「今も職員を新卒で採用し、仕事を通じて育てるのが霞が関の主流なやり方だ。政策の企画・立案を担う総合職が10年ほど経験を積み、これからいよいよ、という時に辞められると厳しい。中核になる年次が少なくなるので、新人を増やせばいいというわけでもない。行政が複雑化してさまざまな新しい課題が出てくる中で、何年か後まで待てない状況もある」
職員の流出が相次ぐ状況下で、民間人材の経験者採用も当然進めている。ただ国の仕事は、予算・法律づくりに国会対応、政治家への根回しといった“特殊性”がつきものだ。「公務員特有の作法、仕事の進め方がある。各省とも、研修などを充実させないと外から来る人は定着しづらい」(人事院の担当者)。
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