マウンティングには敗北しかない確率論的理由 虚勢によって尊敬を得ることは不可能に近い

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いっそのこと「くだらない年収争いなんぞ興味ない」というスタンスで学歴と教養で虚勢を張ることに必死になる人もいる。そうした人は居酒屋の店員を相手に(専門家からすると大抵間違っている)豆知識の数々を話しちらす。そして決めゼリフは「こう見えて○○大だから」と四半世紀以上前の栄光をちらつかせる。

他人と比較することで劣等感が育まれる

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あるとき実はその店員が「居酒屋からみ酒型学歴自慢人」のモノサシからして高学歴だと判明したりする。すると以前の文化的な装いも新たに「今は少子化だから。どうせ大学受験も簡単なんだろ」と狭隘な品性を自ら露呈させてしまう。

このように虚栄/虚勢には経営の失敗がつきものである。虚勢を張って他人と比較し優位に立ちたいという人は、他人と比較したいがゆえに他人と自分に共通して当てはまりそうなモノサシを持ち出す。共通のモノサシがなければ比較が不可能なのだから当然だ。

しかし共通のモノサシは常に自分が一番になるような奇天烈(きてれつ)で異形(ゲリマンダー)なものでもない限り、ほぼ確実に自分より上位の人を含んでいる。こうして、虚勢に精を出す人ほど心に劣等感を育てていく。

SNSが発達した現代ほど誰もが他者からの尊敬に飢えている時代はない。だが、ここまで確認してきたように、真に他者からの尊敬を欲するならば虚勢を張るという「手段」は「目的」に対して不合理なのである。

岩尾 俊兵 慶應義塾大学准教授

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いわお しゅんぺい / Shumpei Iwao

慶応大学卒業、東京大学大学院経済学研究科マネジメント専攻博士課程修了、東京大学史上初の「経営学」博士。著書に『13歳からの経営の教科書』『世界は経営でできている』など。

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