本当にできる?小田急多摩線「相模原延伸」の現状 採算性に課題、2027年度までは動きなしか

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延伸の具体的な目標年は決まっていない。報告書では開業想定を2033年としているが、これはあくまで予測の前提として設定した年だ。

一方で、「2027年度までは事業化しない」ことは決まっているという。交通政策課の担当者によると、これは市の行財政改革の一環だ。市が2021年3月に策定した、2027年度末までを期間とする「行財政構造改革プラン」では、例えばリニア中央新幹線の駅整備が付近で進む橋本駅周辺整備推進事業については「計画期間中に事業を推進します」とあるのに対し、多摩線延伸促進事業は「検討・調査は実施します」と一段下がった位置付けとなっている。

2014年に同市と町田市が交わした覚書では、リニア中央新幹線の開業が予定される2027年までの延伸実現を目指すとしていたが、現状では事業化されるとしても同年度以降ということになりそうだ。

小田急多摩線の電車
唐木田駅付近を走る小田急多摩線の電車。行先表示に「相模原」や「上溝」の文字が灯る日は来るか(記者撮影)

上溝より先も「構想路線」だが…

また、営業主体として想定される小田急は、神奈川県や県内の市町村などで構成する「神奈川県鉄道輸送力増強促進会議」による多摩線延伸早期実現の要望に対し、「昨今のコロナ禍におけるテレワーク定着等、鉄道利用に関わる社会環境も変化していることから、地元自治体のまちづくりによる需要創出に注視しつつ、関係者会議における検討に協力いたします」と回答している。

具体的な進展は見られない多摩線の相模原方面延伸だが、さらにその先への延伸構想もある。以前から関係自治体による検討は行われていたが、神奈川県は2022年3月に改定した「かながわ交通計画」で、上溝から先の愛川・厚木方面への延伸を新たに「構想路線」に位置づけた。

ただ、相模原・上溝までの延伸がまだ見通せない現状では、あくまで構想の域を出ない。2016年の交通政策審議会の答申も、「さらなる延伸を検討する場合には、本区間(唐木田―上溝間)の整備の進捗状況を踏まえつつ行うことが適当である」と、まずは上溝延伸の検討を進めたうえで取り組むよう指摘している。

相模原市内では橋本駅付近でリニア中央新幹線の駅建設が進むが、リニアは静岡県内の工事に着工できておらず、当初予定の2027年開業は事実上不可能となった。多摩線の延伸計画も、現状では何らかの進展があるとしても同年度以降となりそうだ。リニア開業と、多摩線延伸計画の「次の動き」はどちらが先になるだろうか。

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小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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