SBI証券「IPO初値操作」の処分が残した2つの宿題 「顧客の取引に影響はない」では済まされない

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主幹事を担ったIPO銘柄の初値が公募価格割れになると、評判を落とすことになる。追いかける立場であるSBI証券はこれを避けたかったという思惑が今回の不祥事を招いたとも言えそうだ。

証券業界内からは、「初値が公募価格を上回らなければ損をする人が出る。しかもその大半は個人投資家。SBI証券としては何とか支えただけ。そうまでしないとIPO市場は盛り上がらない」という“本音”も聞こえる。

ただ、IPOに対する投資家の信頼を損ねることになれば、日本の資本市場のあり方から問われる事態となる。日本証券業協会も巻き込んだ制度見直しも進んでいるさなか、今回の処分からどのような教訓を引き出すのかが重要だ。

IFAに独立性はあったのか

別の課題もある。SBI証券からの依頼を受けて一般投資家にこれらの銘柄を買うように勧誘したIFAの問題だ。

IFAのIはIndependent(独立)の頭文字であるとおり、特定の証券会社に所属せずに独立・中立の立場で顧客に資産運用の提案を行う。実際の取引は証券会社を通じて行うため、IFAは証券会社と契約し顧客の取引内容を伝達。それに応じた報酬を手にする。

IFAは営業ノルマや証券会社の方針に縛られず、顧客が本当に必要とする資産運用を提案できることが強みのはずだった。ところが今回の件は、顧客に損失をもたらす可能性のある取引を勧誘しており、顧客本位の業務運営とは言えない。

IFAはSBI証券の依頼に唯々諾々と応じたのかが焦点となる。この点は、金融庁の処分や監視委の説明では明らかにされなかった。関わったIFAは3社だが、その具体名は公表しなかった。

2024年から新NISA(少額投資非課税制度)が始まるなど、個人の証券取引が活発化する機運は高まっている。岸田政権の掲げる「資産運用立国」でも、顧客本位の業務運営の確保は最重要課題のひとつだ。IFAも今回の件から改善すべき点がないか検討する必要がある。

2月にSBI証券が提出する予定の業務改善計画がどのようなものになるか。実効性が確保されるようにするために、二人三脚で取り組む金融庁にも重い宿題を残した結果になった。

高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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